11-1《トーナメントと青髪の少女》

6月13日 火曜日 13:30



午前中に行われる筆記テストを全てやり終えた僕は少し気を楽にして寮の購買で昼食を買って自分の部屋に戻ってくる。


「お帰りなさいATせんぱい」


扉をあけると幼女に出迎えられる。

もう流石に慣れた。

しかし、よくもまぁこの娘(こ)の存在が植崎とかにバレずにいるものだ。

…おっとそういうことを思うとバレるかもしれないから黙っておかないとな。


「ただいま…大人しくしていたか?」

「はいです。ATせんぱいのお蔭で暇することがないですから」

「そうか…」


絶華は僕が置いておいたパソコンで何やら動画を見ていたらしい。

僕はブレザーをクローゼットのハンガーにかけながら耳を傾ける。


「ウフフ…そこです土手っ腹に風穴開けてやるです」


…一体何を見ているのだろうか?

銃声に爆音、悲鳴、その他戦闘に使われるような効果音そして絶華の嬉しそうな笑い声が聞こえてくる。

「風穴」とか恐ろしい事を言っているが、あの子の年で見ても問題ないものなのだろうか?

あの年の女の子が見るようなやつなんてプリキュワーぐらいしか思い付かないが…。


ああ、もしかするとあれかな?

というかあれしかないなと頷きながら僕はリビンクを経由してキッチンへ行き、袋から購買で買った食材を冷蔵庫へしまう。

その間、彼女の見ている動画に聞き耳を立てる。


『ククク…コノ程度カ?チキュー人』

『くっ…まだだ、まだ皆やられたわけではない!』


音しか聞こえないが、主人公が何やらピンチに陥っているようだ。


『私ノ鞭ヲ食ラエ!』

『くそっ近づけない』

『なら、これでどうだ!』


――バンバン!


『無駄ダ無駄ダ!』


――ギンギン!シュン――バシィン!


『ぐわぁっ!』

『イエロー!クソッ、ガディーピストルも効かないなんて。どうすれば――』


食材をしまい終え、おにぎりやおかずセットに割りばしを取り出してそれを動画を見ている絶華の前に置いてやる。


「腹減ったろ…これ、買ってきたから…」

「ありがとです」


絶華はモニターから目を反らすことなく返事をし、側に置いたおにぎりに手を伸ばす。

そして包んである袋を書いてある手順に従うことなくその袋を破り、そこらに放り捨てる。


「あ、おい」


当然の事ながら海苔が一切ついていないそのおにぎりを手で持ってパクついた。


「全く…ゴミはちゃんとゴミ箱に捨てろよな…」


というか海苔が勿体ない……明日の朝食にでも出すか?


「んー…んふ!」

「んぅっ…」


彼女が叫ぼうとして1度口に含まれたご飯粒がこちらに向かって飛んでくる。

画面を汚すまいと横を向いたせいで僕の顔中がご飯粒でベタベタだ。

それでもご飯粒は画面にも飛び散って見にくくなっているだろうに…彼女は気にすることなくじっとモニターを見つめている。


「さて、掃除掃除…」


顔を拭き、おにぎりを2つさっさと食べ終えた僕はわざとらしくそう言って立ち上がり、床に散らばった海苔の欠片や袋を拾って袋に入れ始める。


『そこまでだ!』

『ンン何者ダ!』

『だ、誰だ?』

『とう!――私の名はガディーブラック。地球を侵略者の魔の手から守るものだ』

『…ブラックお前…』

『勘違いするな。私は奴に借りがある。それを返しに来ただけだ』

『だが、手伝ってくれるのだろう?』

『……フン!致し方あるまい。剣を貸してやる。共にこいつを倒すぞ!』

『ああ』

『ヒャヒャヒャヒャヒャ!ナンダ貴様ハコノ前ノヤツジャナイカ。マタヤラレニ来タノカ?』

『やられる?やられるのは貴様の方だ』

『ヒャヒャヒャ…コノ前ノ時モ同ジ様ナ事ヲ言ッテイタナ…私ノ鞭ニモウ1度膝ヲツクガイイ!』

『来るぞ』

『おう!』


シュン――キン!


『ナニ!ワタシノ鞭ヲ弾イタ…ダトォ』

『凄いな…博士の強化は』

『ブラック一気に止めを刺すぞ!』

『あぁ!』

『カーディー十文字(じゅんもんじ)切りぃ!』

『グオォ!マサカ……私ノ鎧ガ砕カレルトハ…』


――ドカン!


『よっしゃ』

『やったな』


絶ち華の見ている動画を聞きながら片付けを終える。


『んーザンネン…殺られちゃったわ。今度こそ倒せると思ったのに。でも進化の繭が力で満たされるのも後もう少し…それまで精々喜びに浸ってなさいな。絶望のドン底に落ちるその日まで…ウフフフ――』


女性の笑い声が聞こえ、エンディングテーマが流れて『また見てくれよな』と番組が終了する。

話が終わり、集中が切れたみたいだ。

絶華は「面白かったです」と両手を挙げてぐっと伸びをする。


「またずっと目を反らさずに観ていたな。面白かったか?」


僕はパソコンのモニターを掃除しながら絶華に聞く。


「当たり前です!この作品の名前は≪ガーディレンジャー≫。宇宙人≪デストロイヤー≫たちが地球侵略に来たのを倒していくヒーローたちの話です」

「へぇ~」


――何度も聞いたな。それ。


「凄かったですよ~突如現れた巨大なUFOから出てくる宇宙人が街を破壊して恐怖で逃げ惑う人々。その人たちを逃がしつつも戦うヒーロー。とっても格好いいです」

「あぁ、そうだな」


――ヒーロー、格好いい、ねぇ。本当に好きなんだな。…んー絶華はそういうのに憧れとかあるのかな?


「あ、そうです。ATせんぱいも一緒に観るですよ」

「え、あーごめんな。明日から実技試験があるからそろそろ練習しないといけないんだ」

「そう…ですか?なら、仕方ないですね」


シュンと猫のように落ち込んだのを見て僕は彼女の頭を優しく撫でてやる。


「じゃあ、帰ってきたらそのヒーローの話を聞かせてくれ」

「うん!」


ニッコリと微笑む絶華。

その顔は幼い子供そのものだった。


「それじゃ行ってくるな」

「行ってらっしゃ~い」


僕は彼女に見送られながら荷物をもって部屋を出ていく。

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