10-8
5月20日 日曜日 20:00
1週間にわたる戦闘で身体は疲れて「シャワー浴びてさっさと寝たいな」などと呟きながら扉を開けると「あっ」という幼い声が聞こえてくるのと同時にシュッと空を切る音が鳴り、ギロリと光る何かが僕の頬をかすめて過ぎ去る。
「――!?」
刹那、タンッと後ろの方で音が鳴こえ恐る恐る振り替えるとそこにはサバイバルナイフの刃が後ろの壁に突き刺さっていた。
肝を冷やしつつその刃物が飛んできた方へ視線を移すと僕のTシャツを着た若草色の髪をした幼女が奥の方でこちらを向いて立っていた。
「あはは…ATせんぱい。お久しぶりですぅ」
――違うと言うに……全く……。
「絶華……お前…なにやってんだ?」
――?今の本当なら刺さってたよな?……無意識的にナイフを避けた?
僕は疑問を持ちつつも壁のナイフを抜き取って部屋に入る。
「なにって投げナイフの練習ですよ。遠くから狙った獲物を仕留めるです」
「ふーん。そう」
「うにゅ? 思っていたよりも反応薄いんですね」
「まぁな」
何十何百と死んできたばっかだからな。それに興味もない。
疲れてるし、自分を狙って投げてきたのではないのなら相手にする気はない。
玄関の扉に刺さった数本のナイフを抜き取り、机に置いてから寝室のクローゼットに閉まった着替えを持ってシャワールームへと向かう。
◇
「ATせんぱいお帰りです。サッパリしたですか?」
「あぁ…」
「それはよかったです」
「あぁ…」
――なんか大人しいな…。まぁ、殺されかけるよりかは充分マシだけど。
「なぁ」
「何です?」
「いや、お前さ…なんというか部屋の掃除とか出来ないわけ?」
僕がいない間、勝手に着たのであろう僕の服やら食べたのであろうお菓子の袋やらが泥棒が入ったのではないのかと思うほど辺りに散らばっているのを見て言う。
「うにゅ?きれいじゃないです?」
「お前の周りだけならな。全く『ゴミはゴミ箱へ』それぐらいは常識なんだからやってくれよな」
「でもゴミ箱はもういっぱいいっぱいで入りきらないんです」
「えぇ?……たくっ、どんだけゴミ出してんだよ」
僕はガサガサと台所の引き出しからごみ袋を取り出して絶華に手渡す。
「明日までに片付けとけよ。僕もう寝るから」
「え?手伝ってくれないですか」
「無茶言わないでくれ。1週間戦いっぱなしで疲れたんだよ」
「眠らずにです?」
「あぁ、そうだよ」
「じゃあ分からなくもないです。おやすみなさいです」
「あ、あぁ…おやすみ」
――やっぱり大人しいな。過ぎるほどに…。
彼女の大人しさに若干の気味悪さを覚えながらも僕は床につく。
5月20日 月曜日 0:00
明かりの消えた薄暗い部屋。
「……ZZZ」
ベットに近づいて眠っている防人の顔を覗きこむ幼女はニコリと微笑む。
「寝た…ですか?」
その幼女は防人の頬を軽く指で突っつき寝ていることを確認する。
「ううん…ZZZ」
「寝てるですね。ふふふ…これでついにおにーちゃんに会えるです。そのためにまずは…」
幼女は防人の枕元から生徒手帳を取り、ゆっくり部屋を去る。
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