10-6
「はぁ…はぁ…くっぅ…」
2度目の通信からかなりが経ち、この世界にも夜が訪れて
そして嵐がやって来た。
海は荒れ狂い、島の枝葉は舞い上がる。
そんな最悪な状況の中だと言うのに敵は容赦なく天候の影響など一切受けていないみたいにこちらに迫ってくる。
というか本当に受けてないんじゃないだろうな…。
戦いで敵のライフル弾に当たり、何度脚が蒸発してちぎれ、切られたことかあの時の痛みは勘弁してほしい。
おかげ?で防ぐことと避けることとカウンターもどきは出来るようになったけど。
「くっ…敵は倒す敵は倒す敵は倒す敵は倒す敵は倒す敵は倒す敵は倒す敵は倒す敵は倒す敵は倒す敵は倒す敵は倒す敵は倒す敵は倒す敵は倒す敵は倒す敵は倒す敵は倒す敵は倒す敵は倒す。敵は倒す…敵は…倒す!倒す!!倒す!!!」
僕はぶつぶつと言い聞かせるように呟きながら刀を振り、敵を斬り倒していく。
敵のライフルを奪って乱射し、敵のサーベルを奪って投擲して切って切って斬って斬り倒していく。
「くっ…」
視界が一瞬ぐらつき、暴風に身体があおられる。
僕は慌てて敵のライフルの光線を避け、盾で防ぐ。
このライフルの弾も初めと比べると1,5倍位にはなっている気がする。
あくまで体感だが。
「うぅっ!」
飛んできた大きな枝を避けた先でライフルの弾を脚に受ける。
焼けるような激しい痛みが全身を駆け巡る。
装甲が損傷したが脚は残った。
「くそっ!」
――痛がってる暇はないっ!こんなことで止まっていたら殺られる。
『やぁ…どうだい。調子は?』
モニターが開き、ATの声がスピーカーを通して聞こえてくる。
もう懐かしいとさえ思えてくる。
嵐が去り、敵の動きがピタリと止まる。
「はぁ…はぁ…AT…これで…終わりですか?」
――そうであってくれ。
『安心しろ…もう少しだ』
「もう少し……」
『そうだ。もう少しだ。私の言う通りにすればもう終わる。安心していい…』
「安心…言う通りに…おわる」
――やさしく語りかけてくる。優しい言葉…。
気持ち悪いことだが、このときの僕はなにも思わなかった。そのまま受け入れた。
『そう。もう終わる。だから安心しろ…』
――何でだろ?言われているただ言われているだけなのに…終わる。
そう聞くととても…とても嬉しい。
救いの手を差し伸べてくれているかのように安心する。
どうしてかな?……でも彼の言葉には従うべきなのだろうな。
そう思った。
「…わかりました。貴方の意に従います。何をすればいいのですか?」
『なぁに簡単なこと…これはヴァーチャルワールドで行われたゲームだ』
「ゲーム…」
『ゲームならばステージの最後には“ボス”が待っているものだろ?』
僕を取り囲む敵が光の粒子となって、1つに集まる。
そしてその光は人の形となってATの言う“ボス”がその姿を現す。
見た目は他のガーディアンとは変わらないが背に鞘に入った直剣を装備し、シールドは装備していない。
ただ手首の装甲が1回り大きく見える。
『さぁ、頑張ってくれ…』
「……了解」
通信のモニターが消えると同時に目の前のボスが動き始める。
――速い!
いつの間にか抜刀していたボスの剣を受け流し、後ろからアンカーを打ち込む。
ボスはこちらを見ずにアンカーを避けてワイヤーをスパッと切ってしまう。
「ちっ」
僕は舌打ち、刀をしっかりと握ると残った一本のダガーを取り出して逆手で持ちすぐさま加速してボスと速度を合わせる。
センサーでボスの位置をしっかりと把握し、刀を振る。
――んぅ…当たらない。
2度、3度刀を振るが避けられる。
動きがいままでの敵とは違いすぎる。
「――!?」
首を狙って来た刃を辛うじてダガーで止め、もう片手の刀を敵に降る。
ボスは後ろへ下がり、それを避ける。
「ちっいっ…」
刀を構え直し、振りながらボスをおう。
ボスは身体を僅かにずらしてこちらからの攻撃をことごとく避けくれる。
――こっちはさっさと終わらせたいんだ。当たってくれ!
最後の大降りをボスは避けると素早く後ろへ回り込み、剣を持っていない拳を前へつき出す。
僕はとっさに盾で防ごうしたがボスの拳は僕に当たることはなかった。
しかし、手首の装甲が開き、2本の鋭い鉄の爪が猫の爪のように飛び出して来る。
その間僅かコンマ3秒。
そしてボスはそのまま出した腕を降り下ろした。
その爪は丁度僕の腕の上に出てきていたため、僕の腕は爪によって引き裂かれる。
「う゛ぁっ!……」
肘から先の腕が斬れ落ち、激痛が僕の身体を巡り回る。
腕と共に落ちていく刀。
右手のダガー1本で戦う自信は無い。
「っ!?」
ボスの剣を防ぎ、回転して蹴りを入れる。
急降下して海に落ちる前に刀を回収……
「ぐぅ!」
僕を追って来たボスの剣が無事だった方の脚を切り落とす。
痛みに顔をしかめ、さらに下に降りていく。
「っし!」
刀を掴んで身体をひねり、水しぶきを上げながら海面を滑るように移動する。
――?後方、上空に敵影なし…。どこいった?
僕はセンサーを使い、ボスの位置を確認しようとする。
「――っ!?」
同時に僕の腹部を剣が貫く。
――水中から!?……でも、見つけた。
センサーで位置を確認しつつ刀で海をフェンシングみたいに何度も何度も突き、敵を刺す。
手応えあった。が敵は僕の腹部の剣を引き抜こうとする。
「うっ…」
――まだ動くか…。
僕は刀をくわえて剣を持つその腕をしっかりと握り、急上昇する。
上空で歯を食い縛り、ボスを思いっきり下に叩きつけるように殴る。
「ぐ……」
腹に刺さった剣が抜けてボスが海面に向けて一直線に落ちていく。
僕は奴の後を追い抜かし、手に握り直した刀で胴体から真っ二つに斬り倒す。
「…はぁ……はぁ…や、やったか?」
海に落ちるボスを眺めながら僕は腰の鞘に刀を納める。
「AT……やりましたよ。さぁ、早く……」
『はぁ?画面に浮かぶHPゲージを見てみなよ』
「?…はぁ……はぁ……」
――HP…ケージ…?
改めて視界を見ると左右の上に両者レッドゾーンに突入したバーが浮かび上がっていた。
『まさかここまでやってくれるとは思っていなかったがね。……クローは作り直しかな…』
――気付かなかった………。
「!?……てことは敵はまだ」
気付いたときにはボスは既に水しぶきをあげて僕の目の前に現れていた。
「くっ…――!?」
後ろへ下がろうとしたが敵の腕から伸びる2本の爪が逃がさない。
2本の爪は僕の肩を固定するように引っ掻けられ、腕の下から後から伸びてきた三本目の爪が先程剣が貫かれた腹部を再び貫く。
「あ゛っ……がっ」
あまりの痛みに僕は目を見開く。
ボスの機械の顔は僕の顔を見て一瞬楽しそうに笑った気がした。
「あ゛あ゛っ!!」
――痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!
さらにボスは追い討ちをかけてくる。
三本の爪は熱なのか何なのか分からないが発光をし始める。
「う゛ぅ……」
焼ける痛みが腹部を襲い、肩に掛かった爪は装甲を溶かし始める。
――熱い、熱い、熱い、熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!
そして三本の爪はガシャンと閉じて僕の両腕が肩から斬れ落ち、上半身は顔ごと真っ二つに割れる。
「ぁ…――」
激痛に耐えかねて僕の意識は闇へと沈んだ。
『はぁ~~あーぁー……この程度か…』
ATは防人を元に戻し、深くため息を吐いた。
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