10-5
時間は進み太陽が完全に沈み、空が真っ暗になる頃。
「はぁ…はぁ…」
呼吸を荒げながら敵と戦っていると≪Sound only≫のモニターが浮かび上がる。
僕の視界を遮るように現れたそれのせいで敵の攻撃の対処に遅れる。
「ぐっ」
全身を駆け巡る痛みにうめきをあげる。
モニターが浮かび上がっているというのに今回はは敵は消えていない。
ということは戦いながら話を聞けと言うこと…そんなことを腹を貫く光の刃を見て思った。
『やあ防人…5日間お疲れさま』
「今度は休ませてくれないのですか?」
『……』
――無視かよ。
「ぐぅっ」
腹に走る痛みをこらえ、目の前の腕を切って敵を切り落とす。
その間にも彼は話を続ける。
『初めにいっておくが、これは録音音声だ。君からの質問には一切答えないので了承するようにお願いするよ』
――あぁ…成る程。最初、無視した理由が分かったよ
僕は接近してくる敵を切る。
『そちらはそろそろ夜になる頃かな?もし見にくければバイザーの暗視ゴーグルの機能を使うといい』
――ふーん…そういうのもあるのか。マニュアルはもっとよく読まないとな…。
『この戦いにも君は慣れた頃かな?…まぁ、これだけして慣れてないのなら私は本当のクズだと思うがな…』
――それは貴方の基準とかで決まってしまう気がするのですが…。
『さて、残り二日…同じような戦い方も通じなくなってくる頃だろうな。ふふふ…後、何度死んだことになるのかな?』
彼の嫌味がとっても含まれていそうな笑い声が少しの間流れた後、モニターが消える。
◇
5月18日 金曜日 14:00
今回の工場の一件を伝えるべく呼ばれたブレアは科学者のトップかつこの国の最高権力者である≪ジークムント≫のいる首都≪エリューズ≫に到着する。
――やっぱいつ来てもここは苦手だな…。
彼女は白衣のボタンがしっかりと留まっていることを確認してから今、彼のいる部屋の扉をゆっくりと4回ノックする。
「来たか…」
扉のロックがガチャリと外れ、ブレアはドアノブをひねってゆっくりと開ける。
「失礼します」
ブレアは頭を下げて部屋の中に入る。
――これはクレイがやってたから私が来るのは半年ぶりになるが、相変わらずだな。金持ちぶった部屋…鹿の壁飾りにシャンデリア…キラキラし過ぎて気分が悪(わり)ぃ。
ブレアは内心で呟きながら赤い絨毯で敷き詰められた床の上を歩き、ジークムントの前で立ち止まる。
「工場の事は先に報告書で読ませてもらった。シュタインは逝ったか…」
「はい…」
「工場は壊滅…雇った傭兵僅か一人を残し、そこにいた我が国の兵も全滅か…」
「はい…」
「最悪だな」
「そういえば敵の情報に関しては研究所の場所が分かったのだったな」
高級感溢れる机の上の紙を見ながら彼は言う。
「ふむ…遠いな。敵の研究所に関してはお前らに任せる。何か分かれば伝えるようにしてくれ…」
「はい」
「あぁ後それからシュタインの子供たちについてだが、俺の方で任してもらおうか」
「えっ…貴方が…ですか?」
ブレアの背中から嫌な汗が吹き出す。
――そのようなことを言うのは初めてだ。クレイの子供たちになにかしら興味をもったのか?分からないが、噂では趣味で人体実験をしているとか…人の肉を食らっているとか…言われている。
実際に彼が側においた人間は一ヶ月足らずで忽然とその姿を消す。
偵察中に敵と遭遇して殺られた等と言うことを言っていたが、一人だけの時もあり明らかにおかしい。
前に側にいる人に話を聴いても答えない。
本人がプライベートだから知らせないよう固く禁じさせているとのことだ。
「なんだ?私の命が聞けないと?」
――あくまでも噂。だが今は…従うしかないか?
「そういうことはありません。ですが子供たちはかなり疲弊しており、こちらに来る際に大きな怪我をしたものもおります。それにあれだけの大人数を素早くここへ移動させる足がありません。リニアも距離があるため費用不足で造っていませんし…」
――本当ならば断るべきだ
「ふむ、残念だ。では数人で構わん。回復したものを順に10人ほど連れてきてくれ」
――少なくともこれで時間は稼いだ。早く実態を掴まなければ…。
「…かしこまりました」
ブレアは深々と頭を下げる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます