08-7
5時6日 日曜日 午前2時00分
『皆さん聞こえますか?そろそろ目的が見えてくると思います』
光牙のバイザーを通じてオペレーター《神谷 愛》さんの声が僕の耳元で聞こえてくる。
『アリスさんからの映像データを確認しました。生体反応なし…どうやら現在工場は活動をしていないようですね。周辺を飛んでいる監視のウィグリードからも生体反応が感知されません。どうやら AIによる自立稼動中のようです。彼らが装備しているのは…』
――そうか、よかった本当に人を殺すようなことはなさそうだ。
通信を聞いて僕はほっと胸を撫で下ろす。
『では皆さん頑張ってください』
『了解』
宏樹さんは返事をし、後方で援護射撃に徹するアリスさん 、海上で身構える植崎、遥か上空で始まるのを待つ僕に通信を繋げる。
『みんな聞こえるか?これより作戦を開始する』
『「はい」』
『おう』
防人は返事をしてから腰の刀を鞘から抜いて、工場に向け落ちるような体勢で背中の粒子を一気に噴かす。
――まずは周辺のウィグリードたちに見つからないようにして外にいるGWを破壊して…
敵の懐にまさに飛び込もうというその時、工場の方で起こる爆発音。そして鳴り響く警報音。
「…え?」
いきなりのことに僕は驚いて敵の前で足を止めてしまう。
『バカやろう!まだお前の攻撃は早いぞ、植崎!』
通信機からの宏樹さんのどなり声を聞いて僕はあぁ、やっぱりかぁと内心頷く。
『おら!おら!!おらぁ!!!』
『おい!聞いているのか!?』
『聞こえているぜ!先手必勝ってヤツだろ、宏樹!』
『それはわかっている。だから防人を先行させる予定だったというのに…手順を間違えるな!』
二人の言い争う…というか宏樹さんのどなり声と植崎(ばか)の叫び声を聞きながらファーストアタックを失敗した僕は現在ウィグリードたちにあっさりと感知されて既に取り囲まれていた。
――くそっ!無人機だからためらいはないけど、数が多いな。
『後ろです!』
『援護するよ!』
光牙のセンサーを操りきれていない僕のためにアリスさんの指示と援護射撃をしてくれてなんとか処理をしているが、相手にできるのは1度に2、3機が限界で正直なところかなり厳しい。
それに…
「!!…またきた」
危険信号が鳴り響く中、こちらに飛んでくるミサイルを切り落とし、すぐさま 植崎に通信回線繋ぐ。
「おい!またこっちに飛んできたぞ!そいつにはロックオンの機能もあるんだからちゃんと判断して撃てよ!」
『あはは…悪りー悪りー』
「……はぁー」
あのバカからの攻撃もあるんじゃあな。…本当勘弁してほしいよ。
まさか実戦がこうも難しいものだとは思わなかった。まぁ難しさの理由の一つとして確実にと言っていいほどあいつの誤射が含まれるのだけれど……。
ちらりと視界端のフィールド数値に目線をやると徐々にだが下がっていた。
――このままでは奴等の武器が直接届くのは時間の問題だ。
「早く何か突破口を見つけないと…マジでまずいぞ 」
◇
――さて、今頃はあいつらが工場で戦闘をしていることだろう。
「ふふふ…」
──ヒロから来たデータからして工場内にいるであろう機体の数はざっと1500…それがあっさりと潰された時の国の責任者はどんな顔をするだろうか?
私はその様子を想像し、嬉しそうに微笑む。
『AT!聞こえますか?AT!』
突如通信モニターか開き、神谷の顔がモニターに表示される。
私はそのモニターをクリックし、通信を繋げる。
「どうした?」
『実は工場に向かった皆さんが現在ピンチでして』
「どうしてだ?監視で飛んでいる奴等を発見される前に静かに落とせば、あっさりと侵入できる。あとはデータを入手して工場内で植崎にミサイルを放たさせればいいだけのこと…工場破壊など造作もないことだろう?」
『えぇそうなんですが、その植崎くんが開始と同時に工場に向けミサイルを発射。工場の宿舎を消し飛ばしました』
「っ……そうか」
『そのお陰といってよろしいのかわかりませんが、人の乗ったウィグリードが現れることはありません』
「そうか…」
いや、むしろそれならば都合が良いではないか。まだまだ人を殺せない甘いヤツもいるからな……。
『ですが同時に敵に捕捉され、警報とともに工場内部から無人のウィグリードが飛び出しまして、現在彼らは取り囲まれて身動きの出来ない状況です』
──身動きが取れない…それほどの数がいるのか?
「…数は?」
『現在300機、増減は一秒につき15機増し…というところ ですね』
「その程度なのか?」
『えぇ、ですが防人さんは目の前の敵を倒すのに集中しなければ戦えていません。遠方からの援護をおこなうアリスさんも彼の援護に手一杯な状況、植崎さんは地上にある防衛兵器を破壊していますがミサイルのほとんどが見当違いなところに飛んでいます。チームリーダーの宏樹さんは上手に立ち回っており、問題ありませんが全体的に二人が足を引っ張っている状況です』
「……」
──植崎はともかく防人が苦戦しているのは意外だな。実践を行うにはまだまだ早かったか?いや、こういった経験を積んで奴がまだまだダメだという風に思うのであればそれは損ではなかったか。
「しかし…だ」
――要は現在、宏樹一人で300機という数の量産型を相手にしている状態か。奴の専用機はまだまだ未完成品…やはり標準装備で戦うのはやはり厳しいか…。
『現在何とか持ちこたえていますが、このままでは危険な状況です』
「……そうか……」
――こんな簡単なおつかいも出来ないとはな。私もまだまだ考えが甘いということか。
…いや、防人がもう少し出来るのならば問題なかったかもしれないが…どうしたものか。
「では対策を考えておく。やつらには援護が来ると伝えておけ」
『了解しました…では通信を終了します』
「あぁ…」
通信を切り、私は体重を前に倒し、五本の指で体重を支える。
「……全くつかえない」
──こうなるのであれば植崎にそうするよう言うのではなかったな。
私は吐き捨てるように言うと同時に湊が部屋に入ってくる。
連絡していなかったはずなのにな。
「お兄ぃ!……あれ、どうしたの?何かあった?」
「ん?湊か…いやな」
俺は現在の状況を説明する。
「はぁ!?どうするのそれ?」
「俺と湊のは調整中だしな、予定よりもかなり早いがヴァルを送るか」
「良いの?…それ半年もの予定を先回しにすることになるよ」
「構わんさ。あれは敵に見られたところで困ったものは一切無いからな」
──まぁ見せる気はさらさらないがな。
「そ、別にお兄ぃがいいならあたしは構わないけど…あの子がやるってことはお兄ぃはちゃんとモニターしなきゃね 」
「ま、一応だがな」
「それじゃ…私が連れていくよ」
「よろしくたのむ。私はこの場でヴァルに指示をおくららねばならないのでな」
「わかった。それじゃまたあとでねお兄ぃ」
そう言って彼女は微笑み、私の部屋から出ていく。
◇
『慧君、後ろ!』
「はい!」
僕はすぐに目の前の敵を蹴り飛ばし、後ろの敵の降り下ろした剣を盾で弾き、刀で真っ二つに切って破壊する。
「ふぅ~…次!」
機体の出てくるところは現在7ヶ所。内3ヶ所は植崎のミサイルが偶然破壊した。 光牙のセンサーで捉えられる半径15メートル以内の敵量産型は30機以上。
…全く無双ゲームじゃないんだからもう少し少なくてもいいと思うんだけどなぁ。
さらに敵は無人機…手足が吹き飛んでも動ける限りはずっと襲ってくる。背中のウイングさえ破壊すれば飛んでいるこっちには飛び道具を使ってでしか襲ってこないけれど襲ってくることにからりはない、ほんと勘弁してほしい。かといって人が乗って来ても僕はおそらく手は出せないだろうけど。
『くそっ!キリがねぇぞ』
──そりゃお前が明後日の方向にミサイル飛ばしてるからな。飛ばしまくっているからな。
『くっ…瞬亡が完全な状態ならばこの状況など一瞬で』
── そんなことができるなんて…一体どんな存在なんだ?あのGW。というか宏樹さんとアリスさんは僕ら足手まといのせいで苦戦してるんですけどね。何かすいません。
『慧君、下から2機そっちに行ったよ!』
「あ、はい!」
アリスさんの通信を聞いて僕はそれを確認、腰のミサイルを放つ。
直撃を確認後、光牙のセンサーで敵の損傷状態を確認する。
これは最近になって覚えた技術だ。
──四肢は健在、盾の装甲以外に変化なし…防がれたみたいだな…煙の中の敵を捕捉、接近して手に持つ刀で切り伏せる。
さて、次は…
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