第84話「もう一人の聖巫女と新たな旅の仲間」
タケル達はその後、神殿で休息を取りつつ今後の方針を話し合った。
「俺達はもう一気にタバサ達がいる西方大陸へ行こうかと思っていますけど、それでいいですか?」
タケルがセイショウに尋ねる。
「ええ。もう最終決戦の場へ向かうのみかと。ですが、妖魔王タバサ達が住む塔は結界が張られていて、中には入れないでしょう」
「そんなものがあるの? でもセイ兄ちゃんならその結界を破れるでしょ?」
キリカがセイショウに尋ねると
「ああ、容易ではないが破れる。でも俺は他にやる事があるので、一緒には行かないぞ」
「え? 他って何よ?」
「妖魔王タバサは何かを作っているそうだが、それの正体がわからん。だから俺はそれを調べようと思ってるんだよ」
「何かって、もしかして超兵器とかですか?」
マオが挙手して尋ねると
「そうかもしれませんし、違う何かかも。とにかくそれが完成すれば途轍もない事が起こるでしょう」
「そうですか。では結界はどうすれば」
「はい、マアサさんなら結界を打ち破れるはずですよ」
そう言ってセイショウはマアサの方を向いた。
「え、うちにはそんな力なかとよ?」
「いえありますよ。まだ目覚めていないだけで」
「そうなん? でも何でうちがそんな力持ってるとね?」
「それはですね、うーん」
セイショウは何か言い辛そうにしている。
「こら、そこまで言っといて言わずにいたら、皆モヤモヤするじゃろうが」
ヴィクトリカがやや叱るようにセイショウを促す。
「そうですね。では皆さん、特にマアサさんとキリカは心して聞いて下さい」
セイショウは二人を交互に見つめて言う。
「へ? 私もって何なのよ?」
「黙って聞け。では……マアサさんはですね、最高神様の力を借り受け、それを完全に使える者なのですよ」
「え? それって聖巫女ですよね? マアサが何で似たような事出来るのですか?」
タケルが尋ねると、セイショウが
「似たようなではなく、マアサさんは聖巫女そのものなのです」
「え、え、えええ!?」
そこにいた者達は皆驚き叫んだ。
(ナナはよくわからないとばかりに首を傾げていたが)
「あ、あのセイショウ様。神剣士と聖巫女は一時代に一人ずつしか現れないと伝説にありますが、違うのですか?」
マオがおそるおそる尋ねる。
「いえ伝説通りですよ。ですがそれはこの世界に限れば、の話です」
「え? あ、そうか。ここと異なる世界になら、同世代の聖巫女がいるという事ですね」
それを聞いたセイショウは無言で頷いた。
「じゃあさ、マアサは異世界から来たって事?」
アキナが首を傾げる。
「いいえ、マアサさんはこの世界で生まれ育ちました。それは間違いありません」
「それなら、まさか?」
「ええ。皆さんがお気づきの通りです」
皆の目線はキリカに向いていた。
「やっぱりそうだったのね。私も薄々そうかなあって思ってたの」
キリカはそれを聞いても、あまり驚いていないようだった。
「そうだったのか? でも何でそう思ったんだ?」
タケルがキリカに尋ねる。
「だってセイ兄ちゃんなら私の実の両親や兄ちゃんを探し出せるはずだもん。この世界にいるならね」
「どういう事?」
「私はこの世界の事は何でも見えるのですが、キリカの家族は何処を探しても見つけられませんでした。仮に亡くなられていたとしても、その痕跡は何処かにあるはずだが、それすらも見つからない……という事はキリカは何処か違う世界から来たと言う事です」
セイショウが代わりに答え
「守護神は自身が守る世界以外は容易に見えんのじゃ。まあセイショウは何処の世界でも見れるが、キリカが何処の世界から来たかまではわからなかったからじゃろ?」
ヴィクトリカが後に続けて言う。
「ええ。当時のキリカは幼く、その記憶からは元の世界をイメージ出来ませんでした。なので探しようがなかったのです」
「じゃあもし何処の世界なのかわかっていたら、キリカは今ここにいなかったかもしれないのか」
タケルがキリカを見つめて呟いた。
「あんのセイショウ様、もしかしてやけんど」
マアサがおそるおそる尋ねると
「聞きたい事はわかりますよ。本来ならマアサさんがこの世界の聖巫女で、タケル君のパートナーになるはずでしたが」
「キリカちゃんがいるから、うちは用無し?」
「いいえ。あなたには他の役目をしてもらいたいと最高神様が仰ってました」
「それって結界を破ること?」
「それだけではなく、この先において、人々の心を守って欲しいのです」
「はい?」
マアサはよくわからないとばかりに首を傾げる。
「あなたご自分は大した事ないとお思いでしょうが、今まで多くの人々の心を癒してきましたね。特に未来を創る子供達の心をね」
セイショウはマアサに微笑みかける。
「ああ、たしかに姉さんは今、多くの孤児を引き取って面倒見てます。皆『マアサおねえちゃん』が大好きだって言ってますよ」
マオが頷きながら言うと
「へえ、マアサってそんな事をしてたの?」
タケルがまじまじと彼女を見つめる。
「まあそうとね。世の中を見渡すと親がいなくなった子供がたくさん目につくと。だからうちが出来る限りと思ってね」
「あたしもマアサお姉ちゃん大好き~。ママみたいだし~」
ナナはそう言ってマアサに抱きつく。
「ありがとね、うちもナナちゃん大好きよ」
マアサは彼女の頭を撫でた。
「そうか。妖魔王を倒して黒い霧を祓ったとしても、その後の事を考えたらマアサのような人物が必要ですよね」
イズナがポンと手を叩く。
「ええ。キリカではこうは行きません。下手したら少年を襲って食べてしまうかも」
「あのねえ、ユイじゃあるまいしそんな事しないわよ! それに私はタケルに食べられた、あ」
キリカはしまった、とばかりに口を押さえた。
「え? あの、それ?」
タケルは顔を真っ赤にして呟く。すると
「タケル君。本当にやったらどーなるかわかってるでしょうね……ふふふ」
セイショウの背にドス黒いオーラが浮かんだ。
「ひいいっ!?」
タケルは顔を真っ青にして、凄い勢いで後退った。
「セイショウ、お前も大概シスコンじゃの」
ヴィクトリカが呆れながら言う。
「何を仰るのですか。可愛い妹を簡単にどっかの男にくれてやる兄がどこにいるのですか」
「うちの兄はそうでしたが」
イズナがボソッと呟いた。
「まあとにかく、マアサならセイショウよりも容易く結界を破れるはずじゃ。だからタケル達が塔の前に辿り着いた時に、私が連れて行ってやるのじゃ」
「え? 俺達は一気に連れて行ってくれないの?」
タケルが自分を指して尋ねると
「そうしてやりたいが、あの辺りは妖魔の気が濃いので容易にワープ出来んのじゃ。だがお前達が先に行けば、おそらくそれも消えるじゃろう」
「そっか。じゃあこっからは四人で」
「いえもう一人いますよ、ここに」
マオがそう言って、ナナに前に出るように促した。
「え? ナナが?」
タケル達は目を見開いた。
「ええ。彼女はもう充分戦えますよ。だからいいですよね?」
「マオ、その事をナナのおじいさんに言ったの?」
キリカが逆に問い返す。
「ええ。皆さんが一緒ならいいと仰ってました。あと修行の成果を見て、これならと思われたのでしょうね」
「それならいいわ。皆は?」
「あたいもいいよ。というかさ、あの美味い料理をずっと食えるなんて最高だぜ!」
「私も。マオとご老体のお墨付きがあるなら異存はないわ」
アキナとイズナが了承し
「ナナ、よろしくな」
タケルは手を差しだし、ナナと握手した。
「うん! よろしく~!」
「よし。では中央大陸西部の港町まで私が送ってやるのじゃ。その後は頼んだぞ」
こうして新たにナナを加えた一行は、ヴィクトリカの転移術で港町へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます