第50話「眠っていた力」

「まあいい。では行くぞ!」

 領主がタケル達に突撃する。


「はあっ!」 

 そしてまずはアキナに狙いを定め、蹴りを放つ。

 アキナはすかさず反撃しようとするが

「うわあっ!」

 間に合わずに蹴り飛ばされた。


「あ、アキナ!」

「てめえ!」

 イズナとタケルが斬りかかるが、領主はその体格に似合わず素早い動きで攻撃をかわす。

「ふふ、その程度では俺は斬れんぞ」


「ならこれはどう?」

 ユイが領主に向けて火炎魔法を放ったが

「はああっ!」

 なんとそれを気合だけでかき消した。


「ええええ!?」

「な、なんちゅう強さだ!? あいつ本当に人間か!?」


「キリカ。奴はひょっとして」

 イズナがキリカの側に寄って話しかける。

「気づいた? あいつ善悪は別にしても、自分の意志で戦っているわ」

 アキナに回復魔法をかけながらキリカが答えた。




「あのオッサン、妖魔を取り込んで自我を保ってるって、なんて精神力してんだよ」

 物陰で見ていたミッチーは身震いしていた。




 その後もタケル達が斬りかかり、回復したアキナが気功弾を、ユイが魔法を放つが、尽くかわされ、跳ね返された。


「くそ、どうやったら倒せるんだよ」

「……タケル、私が奴を引きつけるから、隙を突いて光心剣を」

 タケルとイズナが小声で話していた時


「ふん。何か切り札があるようだが、させんわ! はああっ!」

 領主の全身から気が溢れだし、それが津波の如くタケル達を襲い


「うわあああーーー!」

 タケル達はそれをかわしきれず倒れた。


「ああ!? み、皆さん!」

 離れて見ていたダンがタケルの側に駆け寄った。


「さて、女共は部下にくれてやるとして、お前ら二人は……ふふふ」

 領主は舌なめずりしながらタケルとダンに近づく。

「や、やめろ。俺はソッチは」

 タケルが逃げようとするが、ダメージが残っていて動けずにいた。

「ふふ、そう怖がるな」



「……神剣士もこれで終わり、かな?」

 ミッチーがそう呟いた時



「う、うう……うおりゃあああ!」

「ぬう!?」

 ダンが領主の顔面に蹴りを放ったが、領主は倒れなかった。

「はあ、はあ」

 すかさず間合いを取ったダンだったが、後が続かないようだった。

「大した威力ではないが、この俺に一撃を喰らわせた事は褒めてやろう。その褒美に手足をへし折り、たっぷりと」

 領主はそう言ってダンに近寄ろうとする。


「あ……逃げろ、ダン!」

 タケルがよろけながら立ち上がり、ダンに向かって叫ぶが、彼は恐怖のあまり動けずにいた。


「う、あ。いや、負けてたまるか、でも」

 ダンがそう思った時、彼の頭の中に声が響いた。

 

- ダン。聞こえるかの? -


「え?」


- 声を出さず、心の中で返事するのじゃ -


 は、はい?

 えと、あなた誰ですか? 

 声は若い女の人のようですけど、喋り方がおばあちゃんっぽいというか何というか


- あのな~……まあ後で言うから、今は心の中で念じるのじゃ -


 へ? 念じるって何を?


- 眠っている力が起きるように、じゃ -


 え、僕にそんな力があるのですか?


- あるのじゃ。さ、早くするのじゃ! -


 え、ええ……。




「ん? な、何!?」

 ダンの体が光輝いているのを見た領主は思わず後退った。


「え? な、何が起こってんだ?」

「ダンの体から魔法力と気の力が溢れ出ている?」

 アキナやイズナ達も立ち上がり、ダンの変化に驚いている。



 こ、これが僕の力?


- そうじゃ。さ、その力であやつを -


「ええ。……はああ」


 ダンは腰を低く落とし、正拳突きの構えを取った。


「はっ!? させるかあ!」

 我に返った領主がダンに襲いかかろうとするが


「それはこっちの台詞だ!」

「何!?」


 タケルが、アキナが、ユイが、イズナがそれぞれ力を振り絞って遠隔攻撃技、魔法を領主に向けて放つ。


「ぬおおお!?」

 領主はそれらをくらって動きを止めた。


「よし、今だ!」

「ええ……はっ!」

 ダンが渾身の力を込めて拳を突き出すと、そこから光の気が放たれ


「グワアアアーーー!?」

 それをくらった領主は黒焦げになって倒れた。



「凄え! あんなに強かったなんてさ!」

 アキナがダンに駆け寄る。

「ぼ、僕もこんな事ができるなんて、知りま……」

「え、ああ!?」

 言い終わる前にダンは気を失い、倒れた。


「皆、ダンを頼む」

 タケルがそう言って身構えると、領主の体から黒い影、妖魔が沸き出てきた。


「や、やっと出られた……ふふ、ここからは俺が、ギャアアアア!」

 だが妖魔はいきなり消滅した。


「へ?」

 タケルは何が起こったのかわからなかった。



「やるね、次は僕が相手だよ。この妖魔闘士ミッチーがね」

 物陰からミッチーが出てきてそう言った。

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