第8話 ソースかつ丼
光が店を構える国には、そこ一帯では最強と言っても良い位の傭兵がいた。
彼は人間でありながら28の戦場を渡り歩き、24の敵将の首を取った。
その中には総大将までもいたという。その記録は現在も更新中だ。
クスリが切れた中毒患者が麻薬を欲するかのように、ひとたび戦場に出れば血と首を欲してただひたすらに暴れまわる。
その様は敵味方から「人間の皮を被った
その名を聞くだけで敵の戦意がそがれるほどの恐怖を与えたという。
その戦果が認められ王から騎士という最下位ながらも爵位を授かり召し抱えられ、
(現在の王になってからは功績をあげた者には職業、身分、性別関係なく爵位が与えられるようになった)以来
王国のために戦う立場になった彼が、暦の上では春だがまだまだ寒い頃に見つけた店がこの「光食堂」だった。
チリンチリンという鈴の音とバン! と乱暴にドアを開ける音をほぼ同時に立てて、彼は店に入る。
「オイ店主! 今日も食いに来てやったぞ!」
「はいはいいらっしゃいませ。今日も元気ですねぇ。ご注文はお決まりですか?」
「当たり前だろ! とりあえずソースかつ丼をもらおうか!」
怒鳴るようなでかい声で注文を飛ばす。待ってる間、この店について彼は考える。
ここの料理は相当に美味い。それを城の兵士たちに教えたところ、彼らの間で噂となりそれを聞きつけた者及びその関係者がよく来るようになった。
特に『猛獅子』が来るようになったのはでかい。
彼自身も何度か会っているが、そのたびに全盛期だった頃のアイツといっぺん戦ってみたいという叶わぬ願いを思うのだった。
「お待たせしました。ソースかつ丼です」
しばらくして白いメシの上に一口大のカツが6つ盛られた茶碗が出てくる。
「っしゃ! 来た来た!」
料理が出てくると待ってましたと言わんばかりに右手にフォークを、左手に器をもって
まずは小さいながらもソースがしっかりと衣に染みついたカツをフォークで刺し、一口で食う。
濃いソースの味に肉のうまみが加わった、何ともいえない美味が口の中に広がる。
すかさずカツの下に敷かれたライスをむさぼり食う。
カツだけでは濃すぎる味がライスで薄れ、ちょうどいい味付けへと変わる。よくもまあここまで計算出来るものだと感心する。
この店で出されるソースかつ丼はカツはもちろん美味いがこのライスもまた絶品だった。
この国でもコメ自体は出回っているがぼそぼそとして味気なく、
この店で出すライスのようにふっくらとみずみずしく、ほのかな甘みすらある物とは程遠い。
おそらくこの国で流通している物は輸入物で、鮮度が悪いのに加え質自体が大幅に劣るせいだろう。
パンよりはライスという変わりもののアルフレッドにとって、この店のソースかつ丼は
カツを食いに来たのかライスを食いに来たのかが分からなくなるほどのお気に入りだった。
カツを食い、ライスにがっつく。それを繰り返していては茶碗の中身はどんどんと消えていき。ものの数分で空になる。
「ふぅ」
とりあえずの空腹は癒えたところで一息つく。だが彼は男盛り。茶碗1杯程度では全然足りない。
「オイ店主! 今度はサバの味噌煮って奴をくれ!」
再び彼は注文を飛ばす。戦場で
彼の食事はまだ始まったばかりだった。
【次回予告】
光食堂にやってくるのは兵士や庶民だけではない。貴族もまたこの店のとりこだった。
第9話「コーヒーゼリー」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます