第37話姉から昔話を聞かされるんだが


「はぁ、男が一度口にした言葉っていうのは駿馬でも追い着けないんだ、何が勘定に入らないだ!」

 

皇玲ねえさんは肘で僕の顔を擦り、一方では香玲ねえさんによって腰をつねられていた。

 

「お前ぜんぶ忘れてしまったんじゃないの?」


皇玲ねえさんは突然、そういって僕を虐待する手を止め、真面目な口調でいった…


「小さい時のこと、まったく印象に残ってないのか?」

 

「……どんなこと?」

 

僕は皇玲ねえさんの懐から起き上がり、呆然と二人の姉をみた。

 

「たくさんあったんだよ」


そう答えたのは香玲ねえさんだった。

 

僕の小さい頃というのが、もし小学校六年生より昔ということを意味しているなら、すでに十二年の歳月が過ぎ去ってしまっているわけで、きっと様々な出来事があったんだろうけど、彼女たちがそんな風に問いかけてみたところで、僕が覚えているはずがなかった。

 

皇玲ねえさんは過去を懐かしみながら、思いを馳せるようにいった…


「あの時に私は分かったんだ、私のこの弟は世の中で最も良い男だってね」

 

僕としてはどうして突然話題がそんなところに持って行かれるのか分からなかったものの、皇玲ねえさんが三人称の視点からその物語を話してくれたことで、僕は唐突にまたこの話題というのが話の本筋から脱線していないばかりか、徹頭徹尾、皇玲ねえさんの言いたいことそのものであることを理解したのだった──

 

話を終えると、皇玲ねえさんはかすかな口調でこういった…


「クラスメートが家に来ることについては、これからはもう伺いは立てなくていい。但し……万が一それがお前の彼女だったりしたら、私がキレても仕方のないことだからな」

 

彼女を作ってはならないという禁令は依然として健在で、皇玲ねえさんは少しも譲歩する意図はないようだった。


 

その件に関してはもちろん、僕の記憶にもあった。

 

おそらく小学校五年生のころで、金玲ねえさんと香玲ねえさんが僕と一歳違いだから、彼女たちはすでに六年生に上がっていた時の話だ。

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