之ヨリ先、強者ドモ闊歩セシ大会也

1日目、第7試合、前編

 夕火の刻を一時間ぐらい過ぎたころ、丁度、闘技場の周りは橙色に染まっていた。


 天井に張られたガラスから神秘的な光が差し込むスタジアム。そんな神秘的な風景とはまったくもって似つかわしくもない悲鳴を上げる探偵がいた。


「う~ん、後を見ても先を見ても勝てる気がしない……」


 彼女の名前は毒梨どくなし 林檎りんご。一時の間違いで死ぬことになった彼女だが、もうちょっと強気で行けないものだろうか。


「せめて、このナイフに毒とか塗ってあったり、複数個あったりしたら行けるかもしれないんですけどねぇ……」


 と、彼女は愚痴を漏らした。おそらく、それがあっても無理なのだが。


「……やろうか?」


 と、愚痴に答えるのは彼女の対戦相手であるリッカ・イフナ。試合前の暇な時間に、少しだけナイフを創造している。


 複数のナイフが地面にじゃらじゃらと落ちる。


「うーん、遠慮しておきます」


「そうか……なんか残念だな」


 ナイフがまた地面に落ちる。


「願いっていう物は叶うまでの努力が楽しいのです。それがいきなり叶うとなると、少し抵抗感が湧きます」


「何かわかる気がするな、称号もそうだ」


「解るのでしたらご降参の程を……」


「断る」


「ですよねー……」


 説得が通じなかった探偵は、落胆した顔を浮かべた。そして、同時に思考に力を入れた。


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「対戦相手」の「信条」のヒント


・相手は何かにこだわっている

・それは概念的なものだ

・だから三つもいらないっての

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 ヒントを元に少し考え、合点する。

「……どうやら、貴女は称号にこだわっているらしいですね」


「否定はしない」


「やめたほうがいいですよ、そういうの」


「……事情も知らない小娘が」


「今までいろいろな事情を見てきたんでね」


「だとしたら余計なお世話だ、今の俺はその【事情】のために生きている」


「それを否定されるのが怖いと」


「それを否定できるほどの物をお前は持っていないよ」


 静かなムードが漂う中央とは対照的に、周りの観客達は歓声やら怒号を飛ばす。


「さて」


 燃え尽きそうな熱気はまもなく最後の最高潮を迎え、審判は試合開始の合図である旗を準備した。


「生憎、雑魚には興味がないんでね、さっさと行かせてもらう」


「だいたいわかるんですよ、貴女は恐らく歪んだ正義感を持っている」


「俺のナイフに刺されたならば、どっちを齧っても死ぬだろうな」


「探偵として、間違いは否定しなければならない、正さなければならない」


「お前に俺は否定できない、そして歪ませられない」


「私がそれだけの物を持っていないなら……」


「さあ、「毒有り林檎」よ、お前は……」




「新たに見つけてやりますよ!」

称号ロマンの元に死んでゆけ!」


 二人の重なる声は、試合開始の旗が上がると同時に発せられた。会場の歓声は燃え尽きず盛り上がる。

 そうして、今日最後の試合が始まった。





「試し切りだ!」


 彼がそう言うと、先程からこぼれていたナイフとは違い、赤い石が輝くナイフが生み出された。


 そして、彼がそれを右手に手にしたかと思うと、次の一瞬には相手の目の前にいた。


「えっ」


「遅い」


 彼は左手に持ったナイフを振り上げた。


……しかし、その左手には手応えという物が行っていないようだった。


「人間の肉はこんなに柔らかかったものかな?」


柔らかいソフトですからねッ!」


 彼女はふさがった手の反対側で、目の前の存在を切った。


……これまたしかし、手応えは無かったらしい。


「……人間の肉って空でしたっけ?」



 いつの間にやら移動して、少し遠くから彼が言う。


「戦闘の素人に刺されるほど経験という物は要らないものではない」


「しかし、用がない物は要らないものだ」


 彼の上空には、新しく作り上げた物、用意していた物から多種多様なナイフが浮かんでいた。


「これは……もしかしてピンチ?」


 後ずさりする探偵。しかし体が壁に当たる。


「死ね、ダークナイフストライク乱舞!」


 全てのナイフが、一気に探偵に襲い掛かる。











































 砂埃は晴れ、大技の後のスタジアムが見えてきた。


「……致命傷を避け、毒ナイフも避ける。しぶとい奴だ」


 避けられた多くのナイフは、全てが後ろの壁に刺さり、動けなくなっていた。


「だが、それでは動けないだろう?」


 探偵の体には複数のナイフが突き刺さり、血が流れ出ていた。


「両手両足が死んでいないんです、まだまだですよ」


 ぐったりと壁によりかかる彼女は、そんな言葉を言った。


「……お前を殺す前に一つ確認させてもらいたいことがある」


「……なんでしょう?」


「さっきなんて言った?貴方あなた?」


貴女あなた。」


 探偵はかすかに微笑んだ。




「……ダークナイフストライク!」


 彼の手に握られたナイフに、黒き魔法がかかる。

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