つまり無知なる回想を

このお話は林檎さんの人格および戦闘能力参照用です。





控え室で、なんとか落ち着き、状況を飲み込んだ私は、あることを思い出していた。

それは、数年前。まだ私が余り事件にかかわっていなかった頃に起きた「戦い」の経験である。


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「……以上の推理により、この事件の犯人は、あなたです」

と、ある人物を指さした。場にいる人物全員はその人物の方を見て、それぞれ懐疑や失望の眼を向けていた。


犯人という名を着せられたその人物は一瞬全てを空にしたかのように立ち止まったが、すぐに状況を把握した様だった。

そして、彼は言葉を紡いだ。

「ははは……そうだよ、俺だよ!奴のドタマに鉄球をくれてやった「犯人」はよお!」


疑いが、確信に変わった瞬間であった。


「……数分後に、この町の自警団が来ます。それまで、暴れないでください。この場には事件にかかわった皆さんがいます」


「……ハハッ!な~るほどなァ!探偵が関係者を一か所に集めるのはこれが狙いだったのかい!」


犯人は高笑いをしている。何かが彼の中で切れているらしかった。


「でもなあ、探偵さんよぉ、残念ながらこの世界には[能力]ってもんがあるんだよねぇ…」


「……それが?」


「今回の事件中俺の能力って確定してたっけなぁ…?」


「……あっ」


そういえば、忘れていた。粗い目算を建てて、それが彼の能力とばかり思いこんでいたが、確定してはいなかった。確定させるのを忘れていた。


「人数的に不利ならば、一人一人殺せばいいんだよ! [固有結界]!」


彼がそう叫ぶと、私の周りに白い壁と白い床でできた空間が形成された。


彼を取り囲んでいたはずの人々はどこかに消え、場には彼と、私しかいなくなっていた。


「解ったと思うが、俺の能力は自分オリジナルの空間を作る能力!さあて、どう料理してやろうかなァ……」


まずい、これは非常にまずい。所謂生命の危機という奴である。

「おっ、おおお落ち着いて下さい、これ以上罪を重ねるのですか」


震え声で説得を試みる。


「罪ってのは、バレなきゃ0だ。見聞きした奴全員殺してやるよ」


無念。説得通じず、である。


「あー……ほら、あれです。取引しませんか?」


「話は聞いてやろうか」


「あなたが懐に入れてある全ての武器と交換に罪を悔い改める時間を差し上げましょう」


「……武器を捨てて投降しろと素直に言ったらどうだ?」


「おとなしく武器を捨てて投降しろー」


「復唱は要らん」


取引失敗である。そもそも成立していなかったが。


「……OK、わかった。お前には探偵に似ても似つかない華々しい最後をくれてやるよ」


と、彼が懐から取り出したのは……なんだあれ?爆竹?


「産地直送で新鮮なダイナマイトさ」


と彼はすがすがしく言い放った後、その筒に火をつけた。


「……おい、まて、待て!それはさすがに冗談になってない!待つんだ!」


「最初から冗談じゃねえよ!」


鋭い言葉とともに投げ放たれたダイナマイトは、カウントダウンのような音を響かせながらこちらへと向かってきた。


「あっ、えっ」


「散れ」


そして、ダイナマイトは爆発した。







しばらくたち、煙は立ち消え、元の白一色の空間に戻ったころ。

その場には、倒れ伏した私と、何事もなかったかのように立つ犯人の姿しかなかった。


彼は、私の方に近づいてきた。


そして、私の手首を触ると、何かを確認したかのような素振りを見せ、満足そうに後ろを向いた。


私は、彼が後ろ向いたのを確認すると、ナイフを彼の首元に突き立てた。


「……はァ!?すげえぜこれは!「脈無し」人間が生きてやがる!」


彼は複数の驚きの中で叫んだ。


そして、それに答えるように私は言った。


「子供のころに見ませんでしたか?手首の脈を止める方法。丸い球を脇に挟むと止血状態になって、手首の血流が小さくなるアレです」


と、自分の脇の下から鉄球を取り出してやり、見せた。


「へえ、なーるほどな……それにしても、まさか爆発から生き延びられるとは思ってなかったぜ?」


「この空間と同じ「能力」ですよ、3つのヒントは回避にも役に立つんです」


複数の驚きに対して、それ相応の答えをくれてやる。


「で、どうするんですか?職業的に人を殺すのは避けたいところなんですけど」


「ハハッ……いいもん見せてもらったしな、牢獄の手土産にするよ」


「……今後やることがないように」


「善処しますよ」



数分後、彼は町の自警団に連れ去られていった。田舎道をバックに連れ去られていく彼の姿は、どこか満足したような表情だった。


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「……そんなこともありましたねぇ」


これからの為にと、記憶を引っ張り出した私は、ひどく懐かしいような気持ちになっていた。


「……」


数分前までは、試合が始まったらすぐに降参してやろうかと思っていた。しかし、今の回想によって、その心に変化が起きた。


探偵という職業柄、人前に出て、人々に楽しみを与える機会という物は無いに等しい。私にとっては、今回の場という物は、貴重な体験になるのだ。


それならば、人々を悲しませるのではなく、楽しませよう。この大会という物を、一時の間違いで終わらせるのではなく、楽しい物にしよう。


どうせ負けるのだ、それならば、一瞬の輝きという物を奴らに目に見せてやろう。一般人の底力という奴を、食らわせてやろう。


それが、 選手キャラクターという物ではないか。


そう決意した私は、控え室にある、子供用の遊び場から、一つのゴムボールを手に取った。

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