第25話 能力者の末路



「そうか、赤か・・・まあ、仕方ないな」


そう呟くのは人形使いこと田中さん。


「おい!田中ちゃんは、それでいいのかよ!」


「いいさ。というか能力者狩りが来た時に覚悟はしていたし、僕自身ももういいかなって思っていたところだよ」


「・・・」


何か私以外のところで話が進んでいく。

どう言う事?

空気を読まずに聞いてみる。


「すみません・・・どういう事なんでしょうか・・・」


「よういっちゃんよ。カードには種類があってな・・・

普通は黒で能力回収、黄色で能力回収と記憶消去、そして赤が・・・




・・・能力回収と存在そのものの消去だ。」



絶句する私。


「・・・消去って」


「消えるな。この世から存在そのものが」


能力回収依頼としか聞いてない。

どういう事だ?


「まあ、何故だって顔しているよね。よういっちゃんは・・・」


当たり前だ能力者を殺すなんで聞いてない。

いや、実際こいつは人を殺している・・・そうなって当然と言えば当然かもしれない。

だけど、どうにも自分の中で消化しきれない・・・例え悪人だとしても結果的に私の行動の結果人が死ぬわけなのだから。


「この能力者狩りは、相手のやらかした事態によって回収カードが決まっている・・・まあ、田中ちゃんは・・・やっぱ人を殺したって事なんだね」


「ああ、そうだな」


「えらく簡単に物を言うねぇ・・・」


「ふん、僕からすれば今この瞬間でさえ現実なのか夢の中の続きなのかと思っているんだよ」


「・・・」


「まあ、消える前に話しておこう。いちお交流のあった能力者としてね」


「ああ、聞こうか田中ちゃん・・・」



「そうだな・・・最初はこの能力を手に入れて歓喜したさ。

自分の思い通りの人形を作れる。

しかも自分の意思で動かすことが出来る。

なんて素晴らしい能力だろう!と。


 そして、僕は能力を使って人形を作り続けた。


 自分の本来の趣向に基づく人形だったり、たまには趣向と逆の物を作ったり・・・幸せだったかもなあの頃は。


 能力者狩り自体は興味は無かったが、それで強化されて行く能力にもますますのめり込んでいったな。


 そして、ある時・・・人を人形に変える能力を手に入れた。


 人形って人を模して作るだろう?


 じゃあ、人間そのものをベースに作ると・・・どれだけ完成度が高いのだろうと思って作ってみた。


 だが、結果は美しくない納得行く物が出来なかった。


 だから、私はその人間ベース人形にナイフを入れて削り、理想の形に仕上げていった。

 だが、それでも納得がいかない。

 返って、醜いモノしか出来ないのだよ。

 

 だから、初めから美しいと思う整った人間を人形にしようと集めていったんだ。


 それで、揃えていくものの僕の心はまったく満たされない。

 

 何をどうやっても満たされなくなったんだよ・・・。何故だと思う?」


「何故だろうな・・・よういっちゃんよ。どう思う?」


突然、私に振られても・・・だけど、多分・・・私は何となく分かる気がする。



「・・・多分、何もかも簡単に手に入るようになったからじゃないですか?」



「ははは、そう。その通りだよ!!」


「能力を手に入れる前はそうだった。限られたお金から厳選し、調べ上げてやっと手に入れたり、キットからも丁寧に作り上げて、それを大事にコレクションしていた!!


だが、能力が手に入って・・・段々と瞬間的な欲は満たされても本質・・・心の奥底にある物が満たされなくなったんだよ!!


だから、僕はもうこの能力も要らないし、この何も満たされない現実に未練は無い。


さあ、さっさとカードを使って僕を消してくれ。これが現実だとしたら僕はもう大量殺人犯だしね。」


「田中ちゃん・・・分った。」


「ちょ、ちょっと!後藤さん!?」


私はあっさりとカードを使う後藤さんに驚き何故か止めようとするものの。

さっと、手で制止し、回収カードを額に当てる後藤さん。


ブワッと光が輝いた瞬間、人形使いこと田中の体が段々と薄れ、足のつま先より粒子状になって消えていく。


「ははは、ようやく終わったか・・・これで現実に戻れる・・・」


そして、人形使いは完全に消滅した。

それと同時にカードも空間に飲まれるように消えていった。


「よういっちゃん・・・終わったな」


「ええ、正直色々と考えさせられてしまいましたが・・・結局、この世のが現実なのか区別も付かなくなってたんですかね」


「ああ、田中ちゃんも元はまともだったんだがな。あそこまで参っていたとは思わなかった。今ここが現実なんだがな。まあ、能力に飲まれた者の末路なんてあんなもんさ。」


「後は・・・どうしましょうか」


「多分、人間から人形にされた人が居ると思うから探すか」


そして、二人で館を捜索した。


何部屋目かの事。

後藤さんが扉を開けると・・・即座に締めた。


「よういっちゃん。見ない方がいい。」


「どうしましたか」


「恐らく、田中ちゃんが改造した人形だろう・・・人間に戻ってはいるがな、既に亡骸だ」


「わ、分りました。じゃあ、次に行きましょう」


そして、捜索をしていると人の声が聞こえた。


「よういっちゃん!あっちだ!」


「はい」


二人で駆け出した。

建物の最奥の部屋だった。

後藤さんがドアを開けようとするが


「くそっ! 開かない・・・そうだ!よういっちゃんそのショットガンで蝶番撃ってくれ」


「おお、そうですね。了解です」


ドンドンドン!と後藤さんがドアを叩く


「おい!中に居る人!今からドアを破るから下がっていろ!! よういっちゃん!頼むっ!!」


ベネリを構えて蝶番付近を狙う。

バンッ!! バンッ!! バンッ!! バンッ!!


「後藤さん!多分OKです!」


「おし! 行くぞ!」


そのまま、後藤さんはドアを蹴破った。


中には裸体の女性が大量に居た。

これは・・・すさまじい光景だ。

年齢も様々。


これだけコレクションしていたのか。


皆、体を隠し隅の方で蹲っている。


それに、いきなり現れた男性二人組み。

これは恐怖だろうな。


「あー、お嬢さん達。いちお俺達は救助に来たものだ。だが、本隊の到着にまだまだ時間が掛かると思う。だから、まずは部屋にあるカーテンを使って身に巻いて欲しい」


そう後藤さんが説明を行った。

本隊って・・・?


「俺は自分のナイフあるけど、よういっちゃんは?」


「はい、ありますよ」


「じゃあ、それでカーテンを切ろうか」


「はい」


そうして、二人でカーテンを切り女性達に渡して言った。

途中で後をどうするのか聞いた。


「後藤さん。本隊って・・・」


「ごめん、嘘ついた。けど、当てはある」


そう言って、後藤さんは携帯を取り出し外に向かった。

私も付いていく。

電話で話し出す後藤さん。


「あー、すみません。能力者狩りで問題が出て・・・」


「ええ、ちょっと保護して欲しい女性が多量に・・・30人くらいかな」


「ええ、多分そうですね。行方不明者の人達だと思いますよ」


「あー、そうですね。俺ら関わって無いほうがいいです」


「え?ああ、新人ですよ。中々見所ありますよ」


「ええ、場所は・・・」


「では、お願いします。ミスターゴールド」


電話は終わったようだった。

こちらを後藤さんは振り向き。


「おし!撤収だ」


「大丈夫なんですか?」


「ああ、能力者狩りの大先輩に後処理は頼んだ。」


「ミスターゴールドさん?」


「聞こえてたか。まあ、何ていうか・・・凄い人だよ」


「女性たちはこのままで大丈夫でしょうか?」


「う~ん、とりあえず本隊を迎えに行くからと伝えて行くか」


そうして、女性達に説明したものの頼むからどっちか待っていて欲しいと言われたものの、すぐ来ますからと言って何とか二人で出る事が出来た。


後は急いで山を下りバイクで最初の集合場所だった駅へと帰って行った。

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