第21話 「セピア色の思い出③」


「セピア色か……」

 来世は思うことがあって、その日は地元の風景をながめたくなった。

 少し遠回りしながら、思い出に残っている場所をめぐっていく。

 少女たちには『寄る場所がある』と言ったが、特別に決まった場所へ行きたいという意味ではなかった。


 例えば、数年後に廃業する駄菓子屋さん。

 老夫婦がいとなむそのお店は、店主の男性が亡くなってからは閉めてしまうことになる。


 今は栄えている商店街も、十年後には半分以上がシャッターを降ろしていて、改装されることなく放置されてしまう。

 お店だった場所が民家になることもあれば、新しくチェーン店がオープンする場合もある。


(懐かしいな……)

 脳内では未来のことを想像し、肉眼では過去の姿を見てしまう。

 十年で変わる町並みがあれば、ほとんど変わらない部分も残されている。

 そんななつかしさを感じつつ、ものさびしさに胸が熱くなってしまう。それが哀愁あいしゅうなのだろうと、来世は漠然ばくぜんと考えていた。


 この先、来世が何をしようとも、きっと変わる未来はほとんど無い。

 一人の少年が歩む道を変えところで、椅子取りゲームの結果が変化することはあっても、全体から見れば些細ささいな範囲に収まってしまう。


「今度、カメラでも買おうかな」

 それまで、写真には興味がなかったはずなのに、今はそれが無性むしょうに欲しくなった。


「そんなお金、持ってないけど」

 そういう時に限って、自分が小学生であるのを実感してしまう。

 来世にとっては、とても難しい問題だった。


 最後に、公園のベンチに座りながら、昔は美味しいと感じていた駄菓子を食べて過ごしていた。


「美味しくない」

 そんな言葉をつぶきながら、来世の顔に笑顔が浮かんでしまうのは、それが懐かしい味だと感じる心がそうさせるのだろう。

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