第六章 秋子の悩み①

第16話 「いつも明るい彼女が」

 清川きよかわ 秋子あきこはいつも笑ってる。

 自分の意見は主張するけど、強い反対があれば簡単に折れる。

 クラスの力関係を適切てきせつ把握はあくしていて、何が地雷なのかを知っている。

 リーダーのように振舞ふるまっているが、世渡よわたりが上手いからこそ、みんなからの信頼があつい。


「はぁ……」

 そんな少女が、今日だけは来世のとなりで伸びていた。

「はあー」

「……」


(私って、遠野くんに無視されてばかりだな……)

 この日だけは、無視せずに話しを聞いて欲しいと思っていた。

 どこか大人びて見える遠野 来世は、秋子にとって、先生よりも頼りになる人物だった。

 真面目な相談をすれば、きちんと答えてくれる来世。夢を壊さないよう『気を使った説明』しかできない大人ではなく、誰よりも来世に聞いて欲しいと思っていた。


「……どうしたんだ?」

「え?」

「元気だけが、君の取り柄だろう。何か聞いて欲しい悩みでもあるのか?」

「うん」


 秋子には悩みがあった。

 母が再婚さいこんすることになり、新しい父親がやってくる。

 初めてその人と会った秋子は、不安を感じてしまい、どうしても父親と認められなかった。


「新しいお父さんがね、できるの。お母さんが再婚するみたいで」

「……」

「でもね、あの人の笑った顔を見たとき、とても……とてもこわかったの」

 秋子へ視線を向けると、少しだけりきんでいて、ひざの上でこぶしをにぎっていた。


「顔は笑っているのに、目のおくは笑ってないの。それが本当に、こわかった。何を考えているのか、分からなくて」

「母親には、嫌だって言ったのか?」

 秋子は否定するように、首を振る。


「お父さんが死んでから、お母さんは私をひとりでそだててくれた。とても大変そうなのに、疲れていてもご飯の用意をしてくれる。私も手伝うんだけど、やっぱり仕事から帰ってくるお母さんは、つらそうで」

「……」

「そんなお母さんが、新しい恋人を連れてきた。私がどうして、いやだって言えるの? お金のこととか、お母さんだって、あの人のことが好きみたいなのに……」

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