第三章 学校の勉強

第7話 「なぜ勉強する必要があるのか①」


「なんでそんなに、勉強するの?」

 秋子はずっと疑問に思っていたことを来世にたずねた。

 ――関係ない話だが、その日は来世の近くに座っていた姉崎あねさき 千鶴ちづるは、二人の会話に聞き耳を立てていた。


「……勉強なんてしてないよ」

「でも、むつかしそうな本を読んでるでしょ? えっと、こうせいがくのきほん? よく分からないけど、勉強じゃないの?」

「……仮に勉強だとして、君には関係ないだろ」

 来世はページをめくるのに合わせて、秋子の問いに答える。はたから見れば器用なことをしているが、その読書ペースは確実に落ちていた。


 秋子はそんなことでくじける様子はなく、代わりにいつも疑問に思っていることを、来世に向けて問いかけていた。


「じゃあ、質問!」

「……」

 ぺらりと本をめくる音と、秋子の声だけが図書館の中に響いていた。秋子は声の音量を下げていたが、それでもしゃべる人物が秋子以外にいないので、室内にいる全員に聞こえていた。


「なんで勉強をする必要があるの? 親も先生も、みんなそろって『勉強しろー!』って言うけど、遊んでいたほうが楽しいのに」

 一瞬だけちらりと秋子を見た来世は、その問いに答えるべきか悩むが、すぐに本へ視線を落とした。興味をなくして答えない選択肢を取った。

 それでも秋子は諦めず、本を掴んで取り上げようとするが、お互いにがっつり力を入れて離さない。この前みたいなことを、来世は警戒していた。

 しかし本の危険を察してか、根負けして、来世は本にしおりを挟んで机の上に置いた。

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