第235話 呼ばれた理由

「ここを出るって、何でそんな――」

「話は後だ」


 有無を言わさぬ態度に、俺は釈然としないままついていった。


 先ほどとは違い、走らずに、用心深く進んでいく。


 廊下の角を曲がったとき、廊下に面した部屋から突然兵士が二人現れた。


 俺はとっさに角に隠れた。


「お前ら、そこで何をしている!」


 カチャカチャと甲冑かっちゅうの音をさせながら、駆け寄ってくる。


「あ?」


 なのにリズは平然としていた。


 探しているのは陛下リズか?

 月例審議会から逃亡した重罪人か?


「何って――」


 しかしリズは、隠れている俺の腕をつかみ、角から引っ張り出した。


 ちょぉぉっ!?


 せっかく隠れたのに!


「――こいつの護衛」

「誰だ貴様は!」


 兵士が剣に手をかけている。


「っ!」

「何つったっけ? パース……なんとかってやつのとこの手伝い」


 固まった俺の代わりに、リズがぺらぺらとしゃべっていく。


「ろうそくやらなんやら取りに行けっつわれて、なあ? 雑用係じゃねぇっつぅの」

「こんなところに? 怪しいな。帯剣できる者もそういない」

「許可はとってんぞ」

「身元を確かめるまで拘束こうそくさせてもらう」


 死罪を覚悟した身でいまさら逃亡の罪が増えたところでどうってことはない。


 でも、ここでリズを巻き添えにするのはよくないと思った。


 移動中に誰とも会わなかったことや部屋に装備が用意されていたことは、これが計画的な行動であることを示している。


 そしてそれは、俺を逃がすため、ではない。

 

 それだけならばいくらでも機会も方法もあった。


 王宮を出たいのはリズ――陛下の方なのだ。


 捕まったところで万が一にもリズの正体がバレることはないだろうが……。


 なんとかやり過ごさなければ。


「ちょっと待って下さいよ。王宮に入るときに身元のチェックは当然されました。よく出入りしてますが、今までこんなことありませんでしたよ。なんで拘束までされなきゃいけないんですか。こっちも忙しいんです。パースジェラルドに早く届けなきゃいけないんですから。それとも――なんかあったんですか?」

「……宮廷内で怪しい者を見つければ素性を確かめるのは当然のことだ。つべこべ言わずに大人しくしろ」


 さすがに騒動については口に出さないか。


 どうしますかとリズの顔をうかがうと、リズは仕方ねぇななと肩をすくめた。


 俺は、降参、とばかりに両手を上げて後ろを向いた。

 

「わかりました。行きますよ。さっさと終わらせて下さい」

「ちっ。めんどくせぇな」


 リズも舌打ちをして同様に背中を向ける。


 兵士がそれぞれ俺たちの手を腰の後ろに下ろそうとしたとき、逆に相手の手をつかんだリズがくるりと反転して腕をひねり上げた。


「何を……っ!」


 俺の方は相手の手を振りほどき、飛び上がってかぶとの横に蹴りをお見舞いした。


 兵士は勢いよく壁にぶち当たり、床へと崩れ落ちた。


「静かにやれよっ!」

「……すみません」


 リズは後ろに回ったまま甲冑かっちゅうの隙間から兵士の首元に手を差し入れ、兵士を気絶させた落としたところだった。


「そこの部屋に放り込め」


 重い兵士たちを近くの部屋になんとか押し込めると、今来た廊下の方から声が聞こえてきた。


「こっちで音がしたぞ!」


 リズが何も言わずに駆けだした。





「で、なんでこんなことになったんです? ちゃんと説明して下さい」


 王宮を抜け出し、一般市民で賑わっている大通りの一本隣の通りまで来たところで、ようやくリズが足を止めた。


 秘密の抜け穴なんて知りたくなかった。


「途中で兵士を気絶させてしまって。顔も見られてるのに。今頃指名手配されてますよ」

「パースなんとかの名前も出したし、協会会長あのおばさんがどうにかすっだろ。そうじゃなくても誰かがなんとかすっから気にすんな。――それより、警備兵が油断しすぎだ。あんな簡単にやられやがって。あとで……」


 後半は、ぶつぶつと呟くように言ったリズは、突然頭をかきむしり出した。


「んあああああっ! あたしが考えることじゃねぇぇぇっ!」


 確かに、リズがそういうことを気にするのは珍しい。少なくとも口に出したりはしなかった。


 ってかもうリズなんだか女王陛下であらせられるのかよくわからなくなってきた。


「兵士のことはいいとしても、俺は月例審議会に出頭するところだったんですよ。重罪人で逃亡者なのは変わりません」

「ああ、あれ、嘘だぞ」

「は?」


 髪を整え直しているリズがさらっと言った。


「ノトに容疑なんざかけられてねぇし、月審に出ろっつうのは偽の通達だ。議題にも入れてねぇ」


 は?


「じゃ、じゃあなんで」


 なんで俺はあそこにいたんだ?


「一人で逃げられるとは思わなかったから」

「ええと……?」

「あたしが王宮あそこから出るのに協力者が必要だった。一人でうろついてたら目立つし、強行突破するにしても二人の方が都合がいいだろ。ノトの容姿なら目立たねぇしな」


 悪かったな特徴のない平凡な顔で。

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