第201話 主張

「いいですかっ! この背の高い草原があるからこそ、敵から隠れることのできる獣がいるんです! 隠れる場所がなくなったら食べ尽くされてしまうかもしれないんですよ!?」

「繁殖する場所だってなくなってしまうっす! この草原によって縄張りが分かれている獣もいるんすから!!」

「そ、そう……」


 二人で詰め寄ってきて、思わず後ずさりしてしまった。


「わかった。悪かったわ。もうしないから」


 どうどうと、両手を下に向けながらさらに一歩下がる。


「わかってないっすよね!?」

「わかってませんよね!?」


 この勢いは一体……。


「エサがなくなったり、縄張り争いで獣の分布が変わったら、今まで安全だった場所が危険になることもあるっす!」

「審査官だって派遣し直さなきゃいけなんですよ!?」

「ついこの前も、南の方で大規模な災害が起きて、調査団が作られたばかりっす!」

「影響が王都まで来て、先輩方が助っ人に駆り出されて行ったんです……!」

「やってもやってもやってもやっても仕事が終わらなかったっす……!」

「そ、それは大変だったわね……」


 南の災害って、もしかしなくても、私のせい、よね。


「森で大洪水と大火事が同時に起きて、その後も火事が頻発して、ランダンの大移動があったんじゃないかってくらい大量に獣が食い散らかされていたらしいです」

「ランダンの大移動っていったら、百年に一度あるかないかっすよ!? しかも実際には群れがいた形跡はなくて、いまだに原因不明っす。魔物が現れたなんて噂も出ているくらいっす」


 当たってる……!


 食い散らかしてはないけど、魔物であるドラゴンが通ったっていうのは正解。


「ようやく他の地域から補充されて通常営業になっていたのに、今度はノトさんのせいでまた人が減ってるんです……!」

「またあの徹夜地獄に戻るのはイヤっす……!」


 ついにシュスタが胸元につかみかかってきた。

 二人の目がギラギラと光を放っている。


「本当にわかったから! もう絶対しない。気をつける。本当に!」


 ロルドの手までもが胸に伸びてきたので、大きく後ろに下がった。


 二人は「本当にぃぃぃ?」と疑り深い目で私を見ていたけれど、やがてぱっと離れてくれた。


「じゃ、じゃあ! どうしょうか? 強行突破できないなら……」


 これ幸いと話題をそらす。


「もちろん――」

「――あの道を行くっすよ」





「なんで俺が先頭なんっすか!!」

「だって私が先頭を行ったら、後方から敵が現れたときに二人じゃ攻撃できないじゃない」

「わたし、一番後ろ嫌ですぅぅぅ」


 前を行くロルドがなかなか進まず、反対に後ろのシュスタがぴったりとくっついてくるので、私は草の壁の隙間で身動きがとれなくなっていた。


「なんなら逆に……」

「前も嫌ですっ!」

「後ろも嫌っす!」

「障壁があるんだから、初撃で深刻なダメージになることはないわ」

「そういう問題じゃないです!」

「そういう問題じゃないっす!」


 もう二人を置いて行ってしまおうか。


 怖がっているなら、大声を出して獣を呼ぶような真似をしなければいいのに。

 でも掃討するなら現れてくれなければ始まらないのだから、どんどん呼ぶべきで、だからこそ隠密を使わないでいる。


 とはいえ、こんな細い道しか通れないのに、付近の獣を残さず倒すなんてことできるのかしら。


 思考がぐるぐると回り、面倒だからやっぱりきれいさっぱりと燃やし尽くすのがいいんじゃないかと思い始める。


 と、そのとき――。


 頭上に気配を感じ、振り仰ぐと同時に、がさっと右手の壁の中から音がした。


 二人に緊張が走り、メイスを構えた私に一層体を寄せてきた。


「少し離れて! これじゃ動けない」


 ただでさえ横を向けば体の前後を壁に挟まれ、動きが制限されているのだ。


 というか、これ、どうやって戦えばいいの!?


 今さらなそんなことに気がついて動揺したのを悟られたのか、目の前から何かが飛び出してきて、体当たりされた。


「っ!」

「きゃっ!」

「ぎゃあっ!」


 咄嗟とっさにメイスでガード。


 ルンゴールっ!


 四本の手のうち、真ん中の短い腕につかまれないように草壁に押し付ける。


 急襲が不発に終わったルンゴールは、後ろ向きに壁の中へと消えた。

 まるで、びっしりと密に生えている草など存在していないかのような動きだ。


「なんであんなに自由に動けるのよっ」

「ルンゴールは、分け目がわかるようです」

「それを長い腕でかき分けて泳ぐように移動してくるとされているっす」


 この不利な状況に気づいていなかった私も私だけど、その情報はもっと早く知りたかった。


「ここじゃ戦えないわ。いったん出ましょう」


 下がるようにとシュスタを促したところ、シュスタはへにゃりと座り込んでしまった。


「腰が抜けました……」

「ちょっと! 洞窟では普通に戦ってたじゃない。なんで急にこんなところで! もう! ロルド、シュスタを負ぶってあげて!」


 シュスタを跳び越えて、さっきの場所へと後退した。

 後ろを慌てたロルドが追いかけてくる。


 さて。

 どうしようか。

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