エピローグ

第172話 弟子の独白

 何ですの何ですのもう何なんですの!?


 リズさんが女王陛下だと知って腰を抜――少し驚いている間に、話はどんどん進んでいって、リズさんとシャルムさんは連れていかれてしまいましたの。


 先生はどうしてリズさんが女王陛下だって教えてくれなかったのかしら! シャルムさんも本当は女性だったなんて! ひどいですわ! 知らなかったのはわたくしだけで、トビさんまでご存知でしたのよ!? 先生とのおつきあいはそれほど変わらないと思っていましたのに、ずるいですわ!


 他に隠し事はありませんかとお聞きしたかったのですけれど、先生は街に帰るまで終始無言で、マクレガンさんが獣に食べ散らかされていたと報告を受けたときも、うわの空で何もおっしゃいませんでしたわ。

 マクレガンさんはよろいをお召しになっていたせいで獣も食べることに難儀したようで、先に手足を食いちぎられ、それはそれは無残な死にざまだったそうですわ。わたくしなど、つい「ざまあみなさい」と思ってしまったのですが、あの不思議な現象について吐かせられなかったのは残念でした。魔法陣についてはわたくしも大いに興味がありましたし、先生もきっと夢中になったに違いませんわ。



 あれからわたくしたちは言われるままに王都に向かい――協会の馬車に乗せてもらえましたので、とてもとても快適でしたわ――協会の手配した家に逗留とうりゅうしております。

 建物の最上階――三階の住居として貸し出されている一角いっかくなのですけれど、寝室が二部屋あって、湯あみ場まであるんですのよ。わたくしも実家にいたころは専用のを使っていましたけれど、学園では共同でしたし、先生の弟子になってからは無縁のことでしたので、感動してしまいましたわ。


 先生は着いてすぐに協会に行かれて、明け方近くに帰ってこられたあと、ずっと部屋に鍵をかけてこもっておられました。わたくしがいくらお食事だけでもとお声がけしても、お返事はありませんでした。トビさんも、ずっと心配の声を上げていらっしゃいましたわ。

 二日後に部屋から出て来られて、やっと召し上がってくださったときには、二人でほっと息をつきました。


 それから毎日、朝お出かけになっては夜遅くに傷だらけでお帰りになりますの。

 腕の骨が折れて肉を突き破っていたことも、毒矢を受けてドアを開けるなり倒れたこともあります。

 何をしていらっしゃるのかおたずねしても、何も話してくださいませんわ。ただ黙ってわたくしの治癒を受けてくださるだけ。


 先生は、あの日から一度も魔法陣をお描きになっておりません。だから魔法陣なしで戦っていらっしゃるのです。

 なぜなのか、わたくしには知りようもありません。

 


 でも……わたくしは一つだけ知っているのです。


 先生をこんなひどい目にあわせているのが、先生の先生だと言うことを……!

 心配で協会本部までこっそり様子を見に行ったときに聞こえてきたのですわ!


 先生がこんなに苦しんでいるのに、先生の先生はなんとも思っていらっしゃらないのかしら!?


 師弟の関係として間違っていますわ!

 師とは弟子を導き守るもの。そう、先生のように!


 こうなったら、わたくしが先生をお守りするしかありません!

 先生のお役に立つのは、弟子の務めですもの!

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