第166話 連携

 半分失ってなお動くとは。

 内臓や脳みそは一体どうなっているんだ。


 数々の疑問が頭をよぎるが、目の前の光景が全てだ。


 黒くかさぶたのように傷口を覆っていた炭の一部がぽろりと落ち、肉が再生していっているのが垣間かいま見えた。


 そこには、赤く光るあの球があり、盛り上がる肉にすぐに飲み込まれた。


 赤い球が生かしている。

 そう考えるほかない。


 うろこも再生していく。

 古い鱗がぱらぱらと散った。


 俺は身構えながらゆっくりと横に動き、リズが落とした剣を拾った。

 

 なんにせよ……この機を逃せば、またいつチャンスが訪れるかわからない。


 いや――。


 頭の再生が特別速い。

 すでに片目を残すだけになった。


 肩で息をするソフィを見やる。


 ――チャンスなんて、もう二度とないかもな。


 体勢を立て直した敵がこちらを見た。


 左手には逆手さかてに持った剣、右手には破砕器。

 

 それらをしっかりと握りしめ、飛びかかってきた敵に、こちらからも向かう。


 傷口から湯気のようにゆらゆらと立ちのぼっていた白い煙が、たなびいた。

 

 ぐわりと開けられた口が迫る。


 トリガーを弾き、推進を起動。


 右へ跳んで牙をかわす。


 そして炭がこびりつく断面に剣を突き立て、そのまま尻の方向へ一気に走り抜けた。


 一文字いちもんじに切り裂かれた傷からは、血が出なかった。

 悲鳴も上がらない。


 それどころか、肩口から左前脚まで再生してきた。


 化け物かよ。


 互いに向き直り、身構える。


 その時、横から飛んできた土の杭が三本、傷口に突き刺さった。


 シャルムの魔術だ。

 そこからは傷口は見えないはずだが、さすがの特級魔術師。魔術の組み立てが上手い。


 反動でぐらりと体を傾ける敵。


 再び推進を起動。


「二本脚じゃ、つらいよなっ!」


 破砕器から手を離し、両手で握った剣で、踏みとどまろうと力を込めている左前脚を横ぎ。


 完全に生えそろっていなかった鱗は剣を弾くことなく、俺の一撃は骨ごと脚を断った。


 どしんと倒れ、上を向いた断面に、土のつぶてが降りかかる。

 さらに、追い打ちのように、炎が、持ち上げようとしていた頭を殴った。


 俺は敵の上に飛び乗った。


 治りかけで盛り上がっているわき腹が、ぐにっと沈む。


 頭の方へ一歩踏み出せば、そこはすでに鱗で覆われている。


「だあああぁぁっ!! ぁああっっ!!」


 再生したばかりの左前脚を狙って、剣を振った。


 ガキンと鱗で防がれる刃。


 しかし俺は、鱗にヒビが入ったのを見てとり、そのまま力ずくで振り切った。


 支えを失い、敵があごから地に倒れる。


 残るは右後ろ脚のみ。

 尻尾を使っても、立ち上がることはできない。


 リズの剣の切れ味に手応てごたえを感じていた俺は、跳躍を起動。


 頭を持ち上げ、もがく敵の真上へ跳ぶ。


 ここだっ!


 最高点に達する前に、筋力増強を起動。


「でああぁあぁぁっっっ!!」


 落下の勢いと、振り下ろす力を合わせ、鱗に覆われた敵の首の根元へ剣を叩きつけた。


「ぐ……っ」


 ガキンッと硬質な音が鳴り、反動がダイレクトに手から肩へと走った。

 びりびりとしびれる手を意思で押さえつけ、取り落としそうになる柄を握りしめ、振り抜くつもりで全力を込めた。


 が、完全に硬さを取り戻した鱗には、わずかにヒビが入るにとどまった。


「どけぇぇぇぇっっっ!!」


 そこへ、背中の方向から声が上がり、リズが迫ってきた。

 手にはソフィのメイス。


 敵の上から飛び退いたのと同時に、リズの渾身こんしんの一撃が振り下ろされた。


「く……っ」


 リズの口から苦痛をかみ殺す息が漏れ、俺同様、衝撃を逃がすことなく叩いたことがわかった。


 ゴイィィンと、剣とは違う、低く伸びる音のあと、一瞬遅れてピシッとかすかな音がした。


 さっきよりも硬い!?


 もう一発――と破砕器を手にとったとき、シャルムの良く通る声が、ことわりの言葉をつむいだ。


 瞬時に現れたのは、数十の細長い岩。


 リズの頭上に浮かぶそれらは、鋭くきりのようにとがり、そのどれもが、敵の首筋の一点に先端を向けていた。


 そのうちの一本がシュッと風切り音が聞こえるような速度で落下したとき、リズはすでに敵の上にはいなかった。


 ドスドスドスドスッと次々に突き刺さっていくくいは、先に刺さった岩に激突して押し込み、岩と岩の隙間に刺さり、まるで敵の首から岩の木が生えているかのような、大きなオブジェが出来上がった。


 ピタリと静止し、生まれた静寂を破ったのはシャルムのことわりの言葉。


 その意味を頭が理解するよりも早く、手は破砕器のトリガーを弾いていて、俺は再び上空に舞っていた。


 放物線を描いた俺がオブジェに激突する直前、それはぱっと砕けて砂になる。

 腕で目をかばった俺が飛び込んだ土煙は、すぐにシャルムの魔術によって吹き飛ばされた。


 晴れた視界にとらえたのは、うなじに開いた、俺の頭がすっぽりと入りそうな大きさの穴。

 そして、そこを中心として放射状に鱗がばりばりに割れている様子だった。


 今度こそ行ける――。


 筋力増強を起動。


 時間がゆっくりと流れているような感覚。

 振りかぶった剣は正確に穴の位置をとらえていて。


 後は振り下ろしながら落下するだけだと思ったとき、敵が低くうめいた。


 突然、目の前に、炎の球が現れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます