第162話 弟子の参戦

 後ずさりして敵から離れようとすると、逃がさないとばかりに前脚で攻撃してきたが、リズが間に入ってそれを受け流し、顔面を攻撃した。

 全く当たりそうにない、ポーズなだけの一撃だったが、すっかり傷が治った顔を再び攻撃されるのを嫌がったのか、標的はリズに移った。

 その周りをトビが走り回り、死角から炎をぶつけていた。


 俺への関心が薄れたところで後ろを向き、ソフィに駆け寄る。


 ソフィは倒れたパースを守るように立ち、いつでも障壁を発動できるようにしていたが、なかなか攻撃がこないので、手持無沙汰な様子だった。

 近づいてくる俺に目を止め、不安そうな顔をした。

 怒られるとでも思ったのだろうか。


 後ろのパースはうつ伏せに昏倒こんとうしていた。

 足で小突こづいてみたが、ぴくりとも動かない。

 死んでいる可能性も否定しきれない。


 まあいいかとソフィの横に並ぶ。


 一応警戒するためだが、敵はリズしか眼中にないらしく、こちらには一切視線を向けてこない。


「ソフィ、出番だぞ。攻撃に参加しろ」


 え、と声を上げそうになったソフィは、目を見開き口を開けたものの、発動待ちになっている魔術を台無しにすることはなかった。


「障壁は俺が張るからしゃべっていいぞ」


 何かを言いたそうにしているが、声を出せないのでうずうずとしているソフィに許可を出すと、矢継やつばやに質問してきた。


「先生、あの生き物は何なんですの? なぜ傷が回復してしまうんですか? どうなっているんです? いつの間に魔法陣を手に入れたのでしょうか? その破砕器はどこから? なぜ剣ではなくわたくしのメイスを使っているのですか? 勝てる見込みはあるのでしょうか? あの騎士さまを逃がしてしまいましたが、どうするのですか? なぜ騎士さまはリズさんにあんなことをおっしゃったんですか? 先生はお二人の会話の意味を――」


 どこで息を吸っているのかと思うほどの怒涛どとうの勢いだった。


「待て待て待て待て。そういう質問は後だ。今は戦いに集中しろ」


 ソフィは口を開いてさらに何かを言いたそうにしていたが、全てを飲み込み、「はい」と返事をした。


「いいか、俺があいつに剣を突き立てるから、そこに最大限の威力で雷を落とせ。さっき同じことをやったのを見ていたな?」


 ソフィの目が戸惑いに揺れる。


「雷は自信がなくて……うまく当てられるかどうか……」

「近くに落とせば剣に引かれて直撃する。命中率は大した問題ではない」

「それに、先生たちが巻き添えに……」


 自分の破壊力をよくわかっているじゃないか。


「そういう心配はしなくていい。俺もリズも、十分な距離を取る」


 突然牽制けんせいするかのように飛んできた炎の球を、障壁で防ぐ。

 もわりと温かい空気が顔をなでた。


「でも……」


 森から脱出する間に炎を散々ぶっ放してきたってのに、何をそんなに気にしているのかと思ったが、俺たちの逆方向を狙うのと、俺たちのいる方を狙うというのは、ソフィの中で思った以上に差があるようだ。


 濁流だくりゅうで俺を押し流し、消し炭にしかけたのがトラウマになっちまったか。


「正直、俺たちだけでは決定打にかける。相手の回復力を上回る一撃が必要だ。精度よりもとにかく威力が大きく、簡単に回復できないような一撃が。俺の魔法陣には限りがあるし、リズの体力――はまだ余裕そうだが、シャルムの魔力――も尽きることはないだろうが、ええと、ほら、トビはいつまでも走り回ってはいられないだろう」


 せっかく戦線復帰したというのに、真っ先に戦闘から離脱するだろうというのは何とも情けないことではあるが、事実だった。


「このまま続けていてもらちが明かない。他のスラグが寄って来るかもしれないから、さっさと片をつけたい。考えたくはないが、マクレガンがまだあの魔法陣を持っていないとも限らないし、巨大化しただけのスラグであっても集まってこられると厄介だ」


 言って、自分の言葉に違和感を覚えた。


 マクレガンの仕業しわざだとして――。


 それに、シャルムもなぜ――。


 いや、それは後で考えよう。


「ソフィ、わかったな? 俺の合図で発動しろ」


 俺は首を軽く振り、ソフィに強く言うと、身をひるがえしてリズのところに戻った。


 戸惑ったような声であるものの、後ろからソフィの大きな詠唱が聞こえて来た。

 組み上げられていく魔術は相変わらず全力のもので、魔力注入の精度はたかが知れているから無駄につぎ込んでいるに違いないのに、難なく完成させてしまうのは、さすが金髪だ。


 ゼロの俺と比べれば、黒髪だろうが白髪はくはつだろうが、魔力があるだけで雲泥の差がつくわけだが。


 ため息を一つついて、敵の前に立った。


 一撃を当てて下がってきたリズが隣に並ぶ。


「ガキを連れてこいっつっただろうが」

「あそこからで十分です。あれより近づくと自爆の恐れがあります」

「はっ! いいじゃねぇか」


 リズはソフィを一瞥いちべつして距離を測ると、ぺろりと舌なめずりをした。

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