第160話 乱打

「また来やがったのか。足を引っ張んなら――」


 攻撃をけて距離を取ったリズの横に並ぶ。

 その言葉が終わる前に、俺は敵に向かって駆けた。


 狙いは足下のメイス。


 前脚による横払いを伏せてかわし、俺を押さえつけようと飛びかかってきた両前脚は、前に加速することでかわした。

 相手もまさかさがらずに直進してくるとは思わなかったようで、体の下に潜りこんだ俺の存在を見失い、その場でダンスでもするかのように足踏みした。


 メイスを見つけたとき、近くに落ちている剣も視界に入ったが、迷わずメイスを選んだ。

 うろこが硬いなら、打撃の方がよく効くだろう。

 傷口をえぐるのはリズに任せればいい。


 上から降ってくる脚をけがてら地に転がり、メイスを手に取った。

 四つんいになった状態から、再びの踏みつけ攻撃を横に跳んでかわす。


 そしてその脚を景気良く両手でフルスイング――とはいかず、ぶつかったところでメイスは止まってゴォンと鈍い音を立てた。

 鱗ではなく、毛で覆われた部分を狙ったのだが、筋力を増強した今の状態でも傷をつけるまでには至らなかった。


 痛がる素振りを全く見せずに、敵は大きく後ろに跳んで俺の上からいなくなった。

 腹の下でちょこまかとされていてはらちが明かないと思ったのだろう、跳びながら俺を視界に捉えたのがわかった。

 浮かぶ四つの炎の球。


 ずざざっと着地したそこにはソフィがいて、あわや踏み潰されるところで障壁が発動し、一瞬落下の動きを止めたその尻の下から転げ出てきた。


 よくやった。


 そんなところに障壁障害物があるだなんて思いもしなかっただろう敵は、一瞬とはいえ体の一部が乗り上げてしまったことで、バランスを崩す。


 そのもたつきを見逃さず、やや下方から顔面へと土の塊をぶち当てたのはシャルム。追い打ちをかけるようにった顔の横から同じく土の塊を叩きつけたのはパース。


 ギャウンと鳴き声を上げた敵は本格的に体勢を崩し、よたついた。

 浮かんでいた炎がふっとかき消えた。


 キィンと高い音をさせて割れた魔石が跳躍を発動させる。

 跳べる距離はわずかだ。

 だが、地面と水平に跳べば、加速に使える。


 大きく踏み出した足で地を蹴り、低く、弓のように真っ直ぐに跳んだ。


 思ったよりも距離が長いが、そこは足さばきでカバーする。

 着地した勢いのままタタンとステップを踏み、最後の一歩で急制動。

 その反動と、新たに起動した跳躍を合わせて真上に跳び上がる。


 そこにあったのは斜めに傾いた敵の顔。


 踏ん張れない空中で横に振っても効果は薄い。

 ならば、背筋と腹筋を最大限に使って――。


「おりゃああぁぁっっ!」


 振りかぶったメイスを、上から敵の顔面に叩きつけた。


 キャンッと悲鳴を上げ、口からよだれをまき散らしながら倒れていく。


 うろこにピシリとわずかにヒビが入った。

 その隙間からすぐに白い煙がしみ出てきて、何事もなかったかのようにつるりとした表面に戻った。


 攻撃の反作用でくるりと後ろに回転し、落下していく俺はそれを眺めていた。

 俺の攻撃は効いていない。


 だが、倒れていく頭の落下地点には、リズが待ち構えていた。


 脚で宙をかく敵は抵抗むなしく横向きに倒れ、俺が着地するとともにずんと地面が揺れた。


 すかさず走り寄るリズ。

 顔に飛び乗ると、逆手に持った剣を、その瞳へと力いっぱい突き刺した。


 ギャアアアアァァッッ!!


 絶叫がほとばしり、前脚で目を覆った敵がその場で転げまわった。

 

 払われる前に剣を引き抜き、俺のそばに着地したリズは、真っ赤な剣をピッと振った。

 ぼたぼたっと落ちる血に交じって、どろりとしたゼリー状の何かが混ぜっ返された土に残る草の上に飛んだ。


 血を流しながら暴れている敵には近づくことはできない。

 リズは剣を緩く構え、攻撃の隙をうかがっていた。

 俺も同様だ。


「何があった」


 聞かれているのは、突然の戦線復帰の理由だろう。


「パースが魔法陣と破砕器を持っていました」

「それを今頃出してきたのか?」

「渡すのを忘れていたようで」

「信じたのか」


 返事をしようとしたところで、リズがぴくりと何かに気づいたように反応し、押さえた前脚の隙間から血と白い煙を出しながら痛みにもだえ苦しんでいる敵に向かって、走り出した。


 直後、敵に降り注ぐは炎の矢の雨。

 遅れて空中に現れた土のやりも複数落下していく。


 それらは鱗を貫通することはできないが、暴れまわる敵をわずかに停止させる効果はあった。


 俺は、地面に突き立った槍の間をぬって敵に近づき、つるつるとした鱗をものともせずに器用に体を駆けのぼっていくリズを、追った。


 魔法陣の補助を重ね掛けしている俺の方が速い。

 リズよりも先に首元へと到達し、無防備にそらされた首を往復ビンタよろしく乱打した。


 ピシリピシリとヒビが入っていく。

 欠片が飛び散るたびに白い煙が漏れ出てくるが、破壊の速度に再生が追い付いていない。


 バキンと音がして二、三枚の鱗がはがれ落ちた。

 軟らかい皮膚がむき出しになる。


 しびれているかのように細かく痙攣けいれんしていた敵が、起き上がろうと体を動かし、ぐらりと揺れる。


「らあああぁっっ!」


 しかし、俺たちを振り落とすよりも、俺が横によけるのと、追いついたリズが掛け声を上げながら剣を突き刺す方が早かった。


 ずぶりと剣がつかの部分まで飲み込まれた。


 

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