第159話 ばらばら

 暴発防止用にいつもわざと残している空白部分はどれも線が描き足してあって、魔法陣は完成していた。


 魔法陣の数と内容を確かめる。

 同様の効果をもつ魔法陣であっても、ものによって描き方も素材もばらばらだった。


 戦闘用の魔法陣をこんなにまとめて依頼されたことはなかった。

 覚えている限りでは、依頼の中の一枚だったり、営業用のサンプルや研究のためだと言われてぽつりぽつりと送ったものだ。


 だからその時々の素材の在庫や、他の作業との兼ね合いで変わっているのだ。

 研究が進むにつれてより簡略化できるようになった部分などもある。


 なんだか今までの自分の記録を見ているようだった。 


 俺専用のではないから嵩張かさばるし、効果も汎用的すぎる。

 だが、魔法陣の特性に合った高級な素材を使っており、時間をかけてしっかり描き込んでいるため、ありもので描いた魔法陣よりも遥かにましだった。


 いつもと違うラインナップを頭に叩き込む。

 残量を間違えて不発だなんて間抜けなことになったら目も当てられない。


 今すぐに使うもの以外を服の下に着こんだ。

 でかすぎるのだから仕方がない。

 折り畳まずに収納するにはそれしかなかった。


 本当はかさねたくもないんだが、このに及んで干渉を恐れて二の足を踏むようなら、できそこないだと悔しがる俺はいない。


 技術でカバーしてやるさ。

 

 魔石の欠片は、ソフィに割らせるときのために一応持ってきている。

 それらを破砕器に充填じゅうてんし、動作を確認する。


 腰につける金具がないから、落とさないように気をつけないとな。


 破砕器を握ると、手にしっくりと馴染んだ。

 感慨に浸る前に補助の魔法陣を発動させていく。


 その間に戦況を把握する。


 四人と一匹による猛攻撃。

 そのほとんどをうろこで弾き、攻撃を食らってもすぐに傷を治していくドラゴンもどきのスラグ。


 ドラゴン討伐の時と同じような状況だ。

 あのときはトビが入っていた赤い球を外すことで弱体化させることができた。


 今回は、露出している球も、トビのような別のドラゴンの力を使っているような様子もない。

 複数入り込んでいったあの赤い球によるものだというのは推測できるが、あれらを体の中から取り出すのは無理だ。


 万事休す――ではなく、落ち着いてよくよく観察すれば、治癒の速度がドラゴンほどではなかった。

 同じところを何度も攻撃すれば勝機はありそうだ。


 補助をかけ終わり、いつもよりも少し劣るくらいの状態までもってきた。


 準備は完了だ。

 

 行くぞ、という合図を込めてパースを見れば、苦笑いをしていた。


 魔力がないくせに魔法陣を使って戦闘する。

 そのことを知る人間はごくわずかだが、方法はリズとシャルムとソフィとトビを除けば、絶対に把握しているだろう師匠しかいない。


 あとで根掘り葉掘り聞かれるんだろうなと、こちらも苦笑いを返した。


 腕のリングは、最初にかけた即席の弱い補助のものだけだ。

 納品物にそんな便利な余計な効果をつけるわけがない。


 時間切れになる前に終わらせりゃいいんだろ。


 徐々に弱くなっていくパースの声を後ろに聞きながら、俺はその場で軽く飛び跳ねてから、戦闘の輪に加わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます