第157話 役立たず

 トビは止まることなくそのまま炎の中に飛び込んだ。


「トビ!」


 トビのうろこは頑丈だ。多少の熱からは守ってくれるだろう。

 とはいえ、高温にさらされればドラゴンとて無事では済まない。

 自ら発する熱でボロボロになったことだってあるのだ。


 しかしトビはそのまま前進し、炎が消えたところを見計らって体の周りに再びやりを発生させ、向かう槍を追いかけて敵に突っ込んでいく。


 リズがその後を追った。


 ソフィがことわりの言葉を叫ぶ。

 トビへの障壁の援護だ。


 同様にシャルムがリズに障壁をかける。


 リズがトビを追い越し、またも発生した炎を横にさけつつ敵に肉薄し、振るわれた前脚を一瞬足を止めることでよけ、剣をたたき込んだ。


 当然、それは先ほどまでと同様に硬い鱗や毛に弾かれる。


 その後ろ、相手の死角にあたる位置にいたトビが首もとに入り込み、胸に炎の塊をぶつける。


 しかしこれも効かない。


 下からすくい上げるように動いた鼻先をリズが後ろに飛んでよけるが、トビはそれをまともに食らって吹っ飛んだ。

 すぐ近くの木の幹に当たり、が散った。


「トビ!」


 鱗が頑丈だからか、ソフィの障壁が効いたのか、ぽとりと地に落ちたトビはすぐに立ち上がり、その場で小さな炎の球を発生させ、放つ。


 前方ではシャルムが杖をかざして大きな土の杭を、パースが複数の土の塊を生み出し、リズの攻撃の合間あいまにぶつける。


 ソフィは障壁を紡ぎながらちらりとトビの様子を見て、すぐに敵に視線を戻した。

 腰を落としてひざを柔らかく保ち、攻撃がくればすぐに動ける体勢をとっている。

 ここにきて、今まで何度も唱えてきた障壁魔術がようやく馴染なじみ、詠唱しながら体の動きにも注意が払えるようになったようだ。


 剣で斬りつけながら敵の注意を引くリズ。


 小さな体をいかしてちょろちょろ走り回りながら炎を生み出し、ソフィの障壁を待ってふところに飛び込むトビ。


 ひたすらに障壁でトビを守り続けるソフィ。

 

 わざと大きくした互いの詠唱を聞き、敵に傷を負わせるほどの魔術を連携して放つシャルムとパース。


 次第に相手の動きが大きくなり、前脚だけではなく跳躍やダッシュ、後ろ脚での攻撃が混ざり始め、敵と俺たちが向き合う陣形から、敵を囲む陣形へと移行していった。


 前衛と後衛の区別が曖昧になったことで、敵の攻撃は各々おのおのに向かっていく。

 それをシャルムは詠唱を中断して超高速で障壁を展開し、ソフィはステップを踏んでよけるかトビの援護を諦めて障壁を自らにかけ、リズは剣で受け流し、トビは食らうも大したダメージを負っている様子はなく、パースは詠唱しながら魔石で障壁を起動する。

 それぞれが的確に対処していた。


 リズやシャルムならともかく、ソフィやトビも善戦していることに、そしてあろうことかあのビビりのパースが、膝をガクガクいわせ、声を震わせながらも、なんとか敵に向き合っていることに、打ちのめされた。


 俺だけ何もできない。


 地面に魔法陣を描くことを考える。


 ……ダメだ。現実的じゃない。


 ちょっとした魔法ならともかく、この状況で役に立つくらいの威力を出すためには、せいぜい前方に飛ばすくらいの動きしか表現できない。

 起動までのラグだって生じるだろう。


 ちょうど正面に来たときに起動させたとしても、発動までの間に相手が移動してしまう。

 これだけ動き回っている敵に、目の前でじっとしていて下さいだなんて言えるわけがない。


 素材の助けもないのだから、かなり大きな陣になる。

 そのスペースはどこに確保するのだ。


 魔石によって分散魔法陣が生み出されていく光景が脳裏によみがえる。


 俺だけ何もできない。


 ――役立たず。

 ――できそこない。


「くそっ!」


 ソフィ弟子の背中を見るしかなかった俺は、いてもたってもいられなくなり、得物えものがないまま戦闘に混ざった。


 敵の注意を引きつつ、なんとか剣かメイスを確保しようと敵の足元に手を伸ばすが、どうしてもはばまれてしまう。

 ずっと相手がそばにいるわけではないのに、俺が近づくと戻ってきて妨害する。


 リズが攻撃を受けながら蹴っ飛ばそうとしてくれるが、注意を向けられないので上手くいかない。


 俺の意図を察したトビが攻撃をかいくぐって拾いに行くと、前脚で踏みつけられてしまった。


「ぐきゅぅっ」


 トビの障壁が破れ、ぐっと地面に押しつけられる。

 爪は鱗で防いでいるが、そのまま体重をかけ続けられれば潰されてしまうだろう。


「トビ!」

「ちっ」


 俺とリズが同時に駆け寄る。


 そして勢いのまま互いにぶつかった。

 

 敵がその機を見逃すはずがなく、トビを押さえつけていた前脚が、俺の横っ腹をとらえた。


「ぐっ」


 衝撃は障壁で防げたが、勢いまではどうしようもない。


 俺はリズを巻き込んで地を転がった。


「この役立たずがっ! 邪魔だから下がっていやがれ!」


 剣を杖代わりに立ち上がったリズは、敵に向かって走りながら、悪態をついた。


 俺には何も言えなかった。

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