第156話 強い光

 リズは敵の攻撃を正面からは受けず、力をうまく受け流し、ひらりとかわした。

 俺も加勢しようとするが、剣がないことに気がついた。


 しまった。

 剣は敵に刺さったままだ。


 手ぶらではどうしようもない。


「ソフィ!」


 再び振り向いてソフィに叫ぶ。


 ソフィはすぐに俺の意図を察し、メイスを投げてよこした。

 回転しながら飛んできたそれを俺は危なくキャッチする……勇気はなく、よけた。


 メイスは敵に向かってそのまま飛んでいき、その眉間に見事にヒットした。


 よっしゃ!


 そうそう、これを狙ってよけたんだ。

 決して逃げたわけではない。ないったらない。


 小さくガッツポーズした次の瞬間、敵の眉間のうろこが内側から吹き飛ぶと同時に、まばゆい赤い光が発せられた。


 思わず腕で目をかばってしまうが、それでも目を開けることができない。


「そこのガキ! 何しやがった!?」


 リズの裏返った悲鳴があがる。

 その様子は見えないが、おおむね俺と同じような状態だろう。


「な、何も……!」


 ソフィはせっかく準備していただろう魔術を捨てて否定した。

 思わずといった様子だ。


 無駄撃ちになったとしてもせめて発動させてから発言してほしいものだ。

 視界を奪われたこの状況で今最も欲しいのは障壁なのに。


 ソフィはメイスを俺に渡そうと投げただけだ。

 俺がよけたことも予想外だっただろう。


「おそらくソフィのせいじゃないです。偶然タイミングが合っただけでしょう。打撃が契機になったのだとしても、俺やリズの攻撃でも同じことが起こったのだと思います」


 俺が話している間に、シャルムとパースが同時に障壁を展開させる。

 さすがソフィとは経験値が違う。


 おそらくパースは自分にだけ強固な障壁をかけたのだろうが。

 そしてシャルムもたぶんリズにだけかけたのだろうが。


 足元を探りながら後退していく。

 木の裏に回り、少しでも光を軽減しようとするが、焼け石に水だった。


 今のところ、敵は何もしてこない。

 だが、とても嫌な予感がする。


 いや、なんて曖昧あいまいなものではない。

 もう十分にまずいことになっているのは明らかだった。


「ノト、この光、僕には覚えがあるんだが」

「ええ。あの時に似ています」

「っつーことはこの後はあれか」

「考えたくないですが、たぶんそうでしょうね」


 光が収まったとき、残像の残る目をらして相手を見ると、外見に特段の変化は現れていない。


 だが、シャルムが割り、俺が剣を刺し、パースがいかずちを落とした傷のあたりで、ふわりと白い煙が消えるところだった。


 何が起こったかなんて、それ以上見なくてもわかる。


 案の定、傷は鱗の表面まできれいに治っており、いつの間にか、刺さっていたはずの俺の剣は地面に転がっていた。


「はぁ……マジかよ……」


 リズがため息混じりにつぶやき、そして真剣な顔で剣を構えた。


 ソフィ、シャルム、パースの三人は、すでに詠唱に入っている。


 一方俺は、剣を失い、ソフィのメイスも敵の目の前に落ちていて、攻撃の手段を失っていた。


 あとできることと言えば、殴るか蹴るか逃げるかおとりになるくらいだ。

 役立たずにもほどがある。

 木の裏から出られない。

 

 リズも様子をうかがっているらしく、距離をとったまま近づこうとしない。

 あのときと――ドラゴン討伐のときと同じ現象が起きているのであれば、相手の強さは今までとは違うはずだ。


 敵もその気になれば一っ飛びで距離を詰められるんだろうが、こちらを見据えたまま動こうとはしない。

 

 ソフィの無駄に大きな詠唱が最終せつを迎え、ぴたりと声が止んだ。

 

 静寂がその場を支配する。


 双方にらみ合った状況を壊したのは、またもトビだった。


 どさっと音がしたかと思えば、ソフィがその場に尻餅をついていた。

 声を飲み込んだソフィは、振りほどかれたのであろうトビの手に手を伸ばした。


 が、その手はくうをつかむ。


 トビが一瞬でドラゴンになったからだ。


 ぱっと服の下から飛び出したトビは、翼を羽ばたかせながら走り、敵に向かってえた。


「くがぁっ」


 同時にトビの周りに展開されたのは、やり状になったいくつもの炎。

 トビが軽く頭を下に振ると、それらは一直線に敵に向かっていった。


 リズがその後を追って飛び出す。


 対する敵は、口をぱかりと開け、こちらも吠えた。


 びりびりと空気の振動を伴って放たれた大音量の鳴き声は、同時に炎を作り出した。

 まるで口から吹き出されたかのように前方に直線状に向かってきたそれは、トビの槍を飲み込んでなお伸びた。


「うおっっと! あっぶねぇ!」


 そのまま炎に突っ込みそうだったリズは、すんでのところで踏みとどまり、後ろに飛び退いた。

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