第151話 相応しくない

 あとはソフィに任せる。

 待って欲しいとは言ったが、危なくなったらシャルムは回復魔術を使ってくれるはずだ。


「リズ、早くしないと、またスラグが来てしまうかも」

「わぁってる。けど、まだ頭が冷えてねぇ。こいつが口を開いた瞬間に首をねちまいそうなんだよ」


 見れば、剣を握っているリズの手は力が入りすぎて真っ白になっている。

 そんなに強く握っていたら、剣を上手く扱えない。

 この分では体全体にも力が入っているだろう。


 リズはゆっくりと静かに一度だけ深呼吸をした。

 鼻から吸って、口から吐く。

 目がギラギラと光っていて、リラックス効果が現れたとはとても思えないけれど、リズはようやく切り出した。


「質問の答えだけを簡潔に話せ。それ以外のことを言えば首をねる」


 低く、威圧感のある声だ。


「あたしたちに剣を向けたのはなぜだ」


 マクレガンは口に笑みを浮かべた。


「殺すため」

「なぜ」

「邪魔だから」

「何の」

「安寧の」

「何の」

「国の」


 マクレガンはオーダー通り簡潔に答えているのだが、要領を得ない。

 しかしリズは根気強く聞いていく。


「なぜあたしたちが国の安寧の邪魔になる」

「弱いから」


 ぴくりと、剣先が揺れた。

 刃先がマクレガンの首に触れて、すっと赤い線が走る。


 話が嫌な方向に進んでいるような気がした。


「先生っ! トビさんの手が、無事に――っ!?」


 その空気に似つかわしくない、ソフィの弾むような声が上がった。

 俺たちがそれどころではないことを認識したのか、息をのむように言葉を切る。


「やはりそうか」


 マクレガンが満足そうに言った。


 なにがなのか。

 問いただしたいが、聞けば相手のペースにはまってしまう。


 リズもそう思って逡巡しゅんじゅんしたのだろう。

 不自然な間があいた。


 その隙をついて、マクレガンが再び勝手に口を開いた。


魔物ドラゴンを飼うなどどうかしている。それもドラゴンにあれだけの被害をもたらされたあとで。しかも人間に化けてまぎれ込んでいるなど、国民に知れたら大パニックになる」

「リズ」

「わぁってる」


 声をかけたのは、マクレガンの発言についてではない。

 正面――マクレガンの背後から、何かが近づいてきている。

 十中八九、スラグが。おそらく小さい方の。


 マクレガンも気配に気がついているだろう。

 スラグが現れたときの混乱に乗じて抵抗を試みるに違いない。


 トビの正体を知っている理由やなことを聞きたいが、逃がしたら厄介なことになる。

 マクレガンが余裕そうに見えることが、余計に不安をあおった。


「駆除するつもりがないのなら、なぜさっさと研究機関に引き渡さない? 見た目が小さくてかわいい生き物が研究者にいじくりまわされるのが可哀想だからか? 小さくても魔物は魔物。何が起こるのかわからない。他国が魔物一体にどれだけの被害を受けているか知らないわけではあるまい。そうやって感情に左右され、厳しい決断に踏み切ることができない。のこのことこんな所までやって来る。……あなたは相応ふさわしくないのです――女王陛下」


 ギクリと、俺とリズの体が大きく跳ねた。


 俺たちが硬直した隙をついて、マクレガンは、素早くしゃがみこむと、こぶし大の石を拾い上げた。

 一見土で汚れた茶色の石であるそれは、マクレガンがつかんでこすれた所から、つるりと光沢のある表面をのぞかせた。


 魔石……!


 いつの間に!?


 俺たちが警戒して大きく飛び退くと同時に、マクレガンはそれを地面に叩きつけた。


 シャァァァァン――……


 石に当たったのか、魔石が涼やかな音を鳴らして粉々に砕け散った。


 腕で顔をかばい、さらに下がる。


 使わずに割った!?

 一体何をしているんだ?


 戸惑う間に、マクレガンの後ろからスラグが飛び出してきた。

 予想通り標準のサイズだ。


 マクレガンがそれを体をひねってけると、スラグは砕けた魔石の上に降り立った。

 

 瞬間、地面から光が何本もえ、それがつるのようにスラグをからめ取った。


「な……!?」


 絶句するリズの横で俺は、驚愕しながらも、魔法陣だと確信していた。


 魔石に封入して、割ることで効果を発揮する――遺跡に彫り込まれていた記述にあった。


 その技術は失われたままだ。


 


 ぞわりと鳥肌が立った。


 ごくりと喉が鳴った。

 隣でリズも鳴らしたが、俺とは全く違う意味でだろう。


 これから何が起こるかわからず、圧倒的不利な状況にもかかわらず、口が勝手に笑みを刻む。


 知りたい。

 その仕組みを。方法を。


 研究者としての知への渇望で、どうしようもなく血が騒ぐ。


 それどころではないとわかっていても。


「これくらいで驚いてもらっては困る」


 マクレガンは、どこからか取り出したを、拘束から逃れようともがくスラグの上へと放った。

 その球は、何かに引っ張られるかのようにスラグの首もとに激突し、そのままずぶりと毛皮の中に

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