第150話 錯乱?

 しかし、騎士の剣は、障壁によってはばまれた。


「魔石くらい持ってるに決まってるだろ。なぜかあの人たちはあまり使わないようだけど」


 そう言って、パースはかがんだままポケットから魔石を取り出した。何個も。


 おい。一体いくら持ち歩いてるんだよ。

 家でも建てる気か?


 騎士がうろたえているのが背後から見てもわかる。


「よそ見とは、ずいぶん余裕だなっ!」

「気づいてたさっ!」


 マクレガンが突然動いて振り下ろした剣を、横に構えて受け止める。


 パースのことは気になるが、あれだけ魔石を持っていて、自分で魔術も使えるんだから、大丈夫だろう。

 なんせあいつは「人間」には強い。


 パースのことを頭から追い出し、次の攻撃も受ける。その次も受ける。


 斬撃は重い。

 手がびりりとしびれる。


 が、受け止められないほどではない。


 それになんだか単調だ。


 受ける合間に、こちらからも仕掛ける。


 唯一露出している頭部を狙うが、受けられてしまう。

 攻撃の手を速めても同じだ。


 なら別の場所はどうだ?

 よろいに守られている胴に横ぎをぶつけてみた。


「くっ」


 マクレガンはそれを防ごうとしたが間に合わず、剣は胴にぶつかり、金属音が鳴った。


 やはり、頭部に比べて他の部分は守りが甘い。

 鎧に頼りすぎだ。


 攻撃が単調なのも同じ理由なのかもしれない。

 騎士の剣術ってのは、もともと型ありきではあるが、ここまで馬鹿正直に振ってくるとは。


 騎士見習い試験を思い出す。

 敵に対して剣術だけで立ち向わないといけないだなんて、何を馬鹿なことをと思ったっけ。


 本能のままに襲ってくる獣相手なら十分な効果があるのかもしれないが、人間には通用しない。


 鎧を壊すのは骨が折れそうだったので、その案は即座に却下する。

 それはマクレガンにもわかっているはずなのに、陽動で胴や腕や足に攻撃を向けると、つい反応してしまっている。


 そんなに防御に自信があるのなら、完全に無視して、攻撃で無防備になっている俺を斬りにくればいいのに。

 障壁で防いでカウンターを当てるなんて、よくやる手じゃないか。


 連続した攻撃でマクレガンを翻弄ほんろうし、すきを作って誘い込んだ斬撃をからめとり、てこの要領で剣を吹っ飛ばした。


「くっ。……やるじゃないか」

「そりゃどうも」


 距離を詰めたまま、抜け目なく相手の動きを観察する。

 魔石や魔術を使われると面倒だ。


 すっと、俺の横にリズが並んだ。

 下ろしていた剣を持ち上げると、ぴたりと刃をマクレガンの首につける。


 何も言わない。

 おそらく、顔を見ても無表情だろう。


 だが、いるのはわかった。

 伝わってくる気迫がすさまじい。


「ソフィ、ちびの様子はどうだ?」

「手が……! トビさんの手がっ!!」


 ソフィが泣きながら訴えてくる。


「ドラゴンに戻っているんだが、腕が人間のもののままだ。このままでは繋げられない。腕を諦めて血を止めるなら、そろそろ決めたほうがいい」


 シャルムが淡々と告げてくる。


 答えなんて決まっている。

 人間の腕一本と貴重な素材の塊?

 天秤にかけるまでもない。


「もう止めているものだと思っていましたが?」

「先生っ!!」

「わかった」

「特審官さま!? 先生、待ってください! もう少しだけ! ね、トビさん、頑張ってくださいませ」

「きゅー……」


 かすかにではあるが、腕を飛ばされて悲鳴を上げてから、初めてちびの鳴き声が聞こえてきた。


「ソフィ、ちび――トビも痛いだろう。そのまま待っていても死ぬだけだ。さっさと止めてやらないと」

「でも! 手ですよ!? こんな上からっ!」

「きゅー……」

「――あ、ダメです、トビさん! そんなに動いたら、血がっ!!」

「きゅぅぅー……」


 なんだか様子がおかしい。


「ソフィ、どうした?」

「トビさんが、暴れて……! 動いてはいけませんわ!」


 出血多量での錯乱?


「気になるなら行けよ。こいつはあたしが見てっから」

「いえ、なんだか嫌な感じがするんです」


 マクレガンは、首に剣を当てられているのに、恐怖の色を見せない。


 事情を聞くまでは殺されないとでも思っているのか?


 リズは、マクレガンが少しでも変な動きをすれば即座に殺す構えだ。


 もちろん俺もそうする。

 リズが横に来なければ、トビの様子を聞くまえには殺していただろう。

 油断して逆に殺されては敵わないからな。


「先生! トビさんがっ!」


 ――そうか。


「シャルム、待ってください! ソフィ、トビはスラグのところに行きたいんじゃないか?」

「きゅー」

「え!? ――あっ!」

「ソフィ!」

「は、はい! 今すぐ!」

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