第145話 横柄

「何なのですか、あの態度は!? どうして皆さん何もおっしゃらないんですの!?」


 ソフィが憤慨しながらこそっと言ってくる。


「言うだけ無駄だからだよ。ああいう連中は、従ったふりをするのが一番楽なんだ」


 トビの真っ赤な口をぬぐっていた俺の代わりに、パースが答えた。


 ったく、いつの間に漁って食ったんだよ。


 ソフィは納得してはいないようで、むすっとしたままだったが、とりあえず黙った。


「準備はまだ終わらないのか?」


 マクレガンがイライラした声を上げた。


「魔術師どもは準備に時間がかかるからな。さっさと終えて欲しいものだ」


 準備は最初に済ませてある。

 待たせているつもりはなかった。


 しかしこのマクレガンという男、街の中ではここまで横柄おうへいな態度をとってはいなかったのだが、街の外騎士団の領域に来て気が大きくなったのか、部下たちに自分の方が特審官よりも上だと示したいのか。

 指揮官に向いてないんじゃないか。


「○*&×#$×¥○!@%#……」


 不穏なフレーズが耳に入り、ふと横を見ると、ソフィがうつむいて口元を見られないようにしながら、ぶつぶつと悪態をついていた。

 お嬢様とは思えない暴言だ。そんな言葉を知っていることさえ驚くほどの。


「済まない。準備はできている。いつでも行ける」


 シャルムは辛抱強く下手したてに出て対応する。


「では行こう」


 尊大な態度で、マクレガンは身をひるがえした。


 そして剣を掲げ、高らかに声を上げながらまたも森の方向へと突っ走って行った。


 再びスラグがむくりと起き上がり、一目散に駆けてくる。

 呼応するように、さらに大きくなるマクレガン達の声。


 周りの騎士は、さすがに二度目ともなれば慌てることなく、防衛線に向かってきたスラグを、押しとどめている。


「気が進まないが、文句を言われる前に行くぞ」


 シャルムが面倒くさそうに言った。


「ノトが前。次にソフィとトビ。僕とパースジェラルド殿が続いて、最後はリズだ」


 俺たちが先導し、後方を騎士たちに任せるはずだったが、状況が変わったので、前で俺と並ぶはずだったリズが殿しんがりを務めることになった。


 俺が後方じゃないのは、マクレガンたちが切り開いた前方よりも、後方の方がスラグが多くなると予想され、そうなるとシャルムがいたほうが都合がいいからだ。

 シャルムが後方なら、自然とリズも後方となる。


 マクレガンは、態度こそアレだが、軍で鍛えられているだけあって、ばっさばっさとスラグをさばいていった。

 しかし公言した通り、斬り捨てたままとどめを刺すことなく前進してしまい、それがちょうど立ち直ったときに俺たちが通りかかるものだから、俺たちがスラグの相手をする羽目になる。

 深手を負っているとはいえ、数が数だ。無傷のスラグも来る。


 向こうが途中ペースを落とすことなく突き進んでいくものだから、俺たちは引き離され、スラグたちに囲まれる格好となった。


 先に森に到着したマクレガンたちは、苦戦している俺たちを助けに戻ってきてくれることもなく、何とか遅れて合流した俺たちに、「遅い」と文句を言う始末。


 さすがについて来たスラグは共に倒してくれたが、「スラグを引き連れてきてどうするんだ」とあきれていた。


 こうなるとわかっていたから、静かに牽制けんせいしながら森に向かおうという話になったんじゃないか。


 シャルムとリズと魔法陣を使ったブーストした俺がいて、対処しきれなかったスラグをソフィの障壁で一瞬押しとどめることができたなら、スラグの相手をするのは難しいことではない。

 が、数が多く、結構な距離を移動したので、全員疲労困憊ひろうこんぱいだった。

 地面に腰を下ろし、はあはあと息を整えていく。


 それも「情けない。きたえ方がなってない」と言って、こちらは重いよろいを身に着けているというのに、と肩をすくめた。


 だが俺は知っている。シャルムも、当然リズもだ。たぶんパースも。


 重そうに見えるそのよろいはガイトこう――硬く、魔術と相性がよく、そして何より恐ろしく軽い合金でできていることに。

 材料の金属が希少で、加工も難しいことから、一揃ひとそろいあれば、豪邸が二軒は建つほど高価なことに。


「こんなやつらに支給するのもったいないですよ」

「そうは言ってもな、一応国の防衛の要っつーやつなんだ。ここケチるわけにもいかねぇだろ」


 リズが苦い顔で言う。


「さぁて。こっからが本番だぞ。おらシャル、バテてんじゃねぇよ。ノト、そこの魂の抜けたやつ、ちゃあんと連れて来いよ。そいつ居ねぇと意味ねぇからな」


 息が整ったリズが続けて立ち上がった。


 よろよろと他のメンバーも立ちあがる。

 運動に慣れていないシャルムは青白い顔をしてふらふらしていた。

 同じく引きこもりのパースは、恐怖も相まってか、腰が抜けたように座り込んだままだ。


「ノト、立てない。足が動かない」

「甘えんな。立たないなら置いてくぞ」

「いやマジで。立てない」


 仕方ないな。


「トビ、パースに肩を貸してやってくれ」

「はーい」


 俺たちの中で唯一ケロっとした顔をして、一番元気に見えるトビが、てててとやってきて、パースを肩にかついだ。


 それにしても、人間の姿での動き、本当によくなったな。


 

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