第134話 収束

「だからなんだ。その結果こいつは死ぬところだった。それとも、あんたらを助けて死ねとでも言うのか?」

「そういう、わけじゃ……。でも、結局みんな無事だったんだからいいじゃない!」


 魔術師の後ろでは、剣士二人が苦い顔をしている。


 また、どこかで悲鳴が聞こえた。


「はっ! おめでたい奴らだな。お前ら程度ではここにいる意味がない。大人しく協会に引きこもっていろ! ――ソフィ、話すだけ無駄だ。行くぞ」

「はい……」

「ちょっと、話はまだ――」


 なおも続けようとする魔術師を無視して、悲鳴が聞こえた方へと向かう。

 ソフィは後ろを一度振り返ったが、唇をかみしめたまま無言でついてきた。


 ――誰かを助けたいと思うなら、強くなるしかないんだ。




 街門まではまだ距離があるというのに、被害は深刻だった。

 そこかしこに食い荒らした形跡があり、逃げるよりも建物の中にこもるのが安全かと思われたが、壁が大きく破壊されているのを見るに、もはや逃げ場はないようなものだった。


 女王陛下のご加護に守られた街で暮らしていた住人のほとんどは戦うすべを持たない。

 腕に覚えがある住人や、たまたまその場に居合わせた流れ者も、スラグにはたちうちできず、武器を持ったまま倒れていた。


 俺たちは食事に夢中になっているスラグに襲い掛かったり、防戦一方ながらもなんとか踏みとどまっている戦闘に割り込んだりして、なんとかスラグの数を減らしていた。

 上級持ちらしきパーティもいくつか見かけ、苦戦しながらも倒している様子だったが、いかんせんスラグの数に比べてこちらの戦力が圧倒的に不足しており、焼け石に水だった。


 やっと協会の指示で多くの上級持ちが回されて来た頃には、住人はみな逃げたか殺されたかしていて、誰もいない街をスラグが悠々と闊歩しているありさまだった。

 当然、取りこぼしたスラグは多数いて、被害は広範囲に渡り、さらに広がっていった。


 途中、先程助けた三人が倒れているのを発見し、まだ息のあった魔術師をソフィが助けようとしたが、間に合わなかった。

 そばに子どもとその母親らしき亡骸なきがらがあったところを見ると、二人を助けようとして失敗したのかもしれない。


 ソフィは涙をひとすじ流したが、それをぬぐって立ちあがった。


 一度街門まで行ってみたが、特級持ちのパーティたちや騎士団の連中はさすがの実力で、外に群がっているスラグを食い止めていた。

 ここが突破されれば、殲滅せんめつどころの話ではないと、一応声をかけてみたが、加勢は不要だと返ってきた。


 ならば俺たちはシャルムのいう通り、掃討に力を注ぐのみだと、スラグを探しに戻った。


 建物にさえぎられてスラグを目視で探すのは困難で、距離があれば感覚強化も役には立たない。

 時間がたつにつれてスラグたちは分散していき、ますます探すのが難しくなっていった。


 しかしうちには野生の勘をもつドラゴンがいる。


 時たま倒れたスラグのところに連れていかれ、球を取るのを手伝わされたりもしたが、やみくもに探すよりもずっと効率がよかった。


 そのうち他の上級パーティが俺たちに気がついて、スラグがいる方向を聞いてくるようにまでなった。

 トビはスラグの生死もわかるらしく、他のパーティにはちゃんと生きているスラグを指し示していた。


 必然、俺たちは死んだスラグに向かうことが増え、この非常時に死体漁りをしているところを多数目撃されることになる。


 黒はともかく、金、赤という珍しい髪色、男女の剣士とその周りをちょろちょろしているだけの男という組み合わせで、赤髪は離れたところにいるスラグがわかるほどの高度な感覚強化が使えて、金髪が魔術師ではなく剣士で、少女のくせに重そうなメイスをぶんぶん振り回していて、倒れているスラグを見れば肉をほじくり返しているのだから、目立たないというのも無理な話だった。


 これに加えてソフィやトビが障壁魔法陣まで使おうものなら、尾ひれどころか背びれや胸びれや腹びれまでついた話が流布るふしそうだ。

 あれ以来、障壁を使うような場面にはなっていないのが救いである。


 この騒動が終わった後、面倒なことになるのだろうなとため息が出る。

 ひっそりと静かに暮らしていきたいだけなのに、どうしてこんなことになってしまったのか。


 今までも素材集めや協会からの依頼で討伐することは少なくなかったが、ほとんど一人でやってきた。

 誰かと組むと、本当にろくなことがない。



 しばらくして、街中の安全は確保されたことを示す鐘の音が鳴った。

 まだ外には大量のスラグがいたが、遠巻きにしているだけであり、憲兵団や国軍だけで侵入を食い止める体制が確立できたことから、事態は一応の収束を見せた。

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