第五章 収束

第123話 つるり

「他のスラグのも探せ。まだあるかもしれない」


 シャルムが指示を出し、リズとソフィが動いた。

 離れて見ていたちびもソフィについて行く。


 俺は自分の手を見つめ、手から消えてしまった球のことを考えていた。


 帯の魔法陣が前と似たようなものならば、意味は読み取れないだろう。

 どのみち細かすぎて字の識別すらできないのだが。

 すぐに消えてしまうこともあって、書き写すこともできない。


 役目を終えた魔法陣が消えるのはなんらおかしいことではない。

 終えたかどうかは、取り出されたことがトリガーになっていると推測できる。

 その点は決して一般的とは言えないが、できなくはないだろう。


 球が消えるのも、おそらく魔法陣の最後に書いてあるのだろう。

 俺が最後に紙を燃やすのと同じで。 


 問題は、何も残さずに消えてしまったことだ。


 あのときは、中にちびがいた。

 ちびの魔力を吸い上げて出力するための装置、という理解だった。


 なのに今回は何も入っていなかった。


 全く別のものなのか、それとも俺の理解が誤っているのか。


 ……材料が足りていない。

 これ以上考えてもらちが明かないな。


「ありましたわ!」


 思考を打ち切ったとき、ちょうどソフィの声が耳に飛び込んできた。


「こっちにはない」

「こっちにもねぇ。ってか、ケツから見つかったのか? 腹じゃねぇのかよ」


 ソフィが切り開いた所を見て、腹を裂いて腕を突っ込んでいたリズがうめく。


 一体目は腹だったが、二体目は尻にあったらしい。

 個体によって場所が違うのか。


「ソフィ、まだ帯はあるか? 見せてみろ」


 倒れているスラグを回り込み、ソフィに近づく。


「あっ!!」

「どうした!?」


 何か不測の事態が起きたのかと、三人で慌てて走り寄る。


「ちびさんが……食べてしまいました」

「はぁ!? このバカドラゴン! 貴重な手がかりを!!」


 怒鳴り散らすリズがちびを捕まえようと手を伸ばすが、ちびはするりとかいくぐって逃げた。


「待て、こら!」


 追いかけ回すリズの前をちょこまかと逃げる。


 あんなに速く走れるようになったんだな。

 初めて会ったときにはすぐに転んでいたのに。


 って、今は感慨にふけっている場合ではない。


「ソフィ、ちびが食べたというのは本当か? 直前で消えたんじゃなくて?」

「ええ、食べてしまいました。ぱくりと食べて、ごくんと飲み込んでいましたわ」

「なんでまたそんなことを」

「美味しいのでしょうか?」


 気にするべきはそこじゃない。


「ソフィ、どうして尻にあるとわかったんだ?」

「ちびさんが教えて下さいました」


 ちびにしかわからないのか。


「リズ! 場所はちびがわかるみたいです」

「追いかけても逃げるだけだ。それよりノトに探させろ」

「ちっ、わぁったよ」


 リズが捕縛を諦めると、ちびはぴゅーっと俺のところまで走ってきて、後ろに隠れた。


「ちび、他のスラグの球も探してくれ」


 言えばちびは近くのスラグの体の周りをぐるりと一周し、首の根元に前脚を置いた。


「ここ、みたいですね」


 俺に続き、三人がその部分をのぞき込む。


「いきますよ」


 ナイフの刃をスラグの皮にわせる。

 切り開くように肉を断っていけば、果たしてそこには球があった。


「ありました」

「あったな」

「ありましたわね」

「……ちっ」


 皆が感心する中、一人だけ舌打ち。


 取り出した球は、やはり帯がくるくると回っている。

 しかし、やはり読むことはできない。

 そして、やはりその帯はすうっと消えてしまった。


「この球も消えるんでしょうね。……おっと」


 血でつるっと滑って、挟んだ指から球が地に落ちた。


「あ!」


 ころりと転がったそれを、すかさずちびがぱくりと食べる。


「こんのバカドラゴンがぁぁっ!!」


 リズがまた手を出そうとする。

 それをシャルムと俺が二人がかりで止めに入る。


「あいつがいないと見つからん」

「どうせ消えてしまうんですし」

「ちっ」


 一体何回舌打ちするんだ。

 やっと手掛かりらしきものが見つかったのに、それ以上進展がないことを焦っているのだろうか。


「すぐに消えてしまうので球を調べることはできませんが、埋まっている場所に法則性がないかだけは確認しましょう」

「そうだな」


 ちびが指示したところを、順番に探すことになった。

 何か別の変化が起こったときのことを考えて、バラバラに作業するのではなく、みんなで集まって確認していく。


 肉の中の感触を体験してもらうために、シャルムとリズにも取り出してもらう。


 シャルムはひじ上までどっぷり血をつけて取り出した。

 次はリズの番だ。


「ああ、これか。……ん? ん? あれ?」

「どうしました」

「滑ってつかめねぇ」

「ちょっと代わってください」


 リズが探っていた腹の中に腕を突っ込み、ぐにぐにとかき分けていく。


「この奥ですよね? 取れましたよ」


 取り出してリズに見せれば、怪訝けげんな顔。


「滑らないとは言いませんが、つかめないほどではありません」


 俺は服でごしごしとこすり、表面をきれいにしてからリズの手のひらに落とした。


「のあ!?」


 しかしそれは、つるりと手の上を滑り、下へ落ちてしまった。

 すかさずちびが食いつく。


「また食いやがった。意地汚ねぇ」

「ちび、なんでそんなものを……」


 その後、すべてのスラグを見てまわったが、埋まっている箇所の規則性を見つけることはできなかった。

 一体、ちびが「ない」と首を振ったスラグがいたが、大きく損傷していたため、露出してすでに消えてしまったのだと推測がなされた。


 そしてもう一つわかったことがある。


 リズが球に触れない。


 触ろうとすると、つるんと滑って逃げ出してしまう。


 手で囲ってみると、暴れこそしないものの、内側から圧を感じるそうだ。

 手を開けばぴょんと飛び出してしまう。


「どうやらあたしは嫌われているみてぇだな」


 リズが両手を腰に当てて、ため息をついた。

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