第120話 活躍

「待たせたな、じゃねぇよ」

「遅い」

「……」


 後ろからリズとシャルムの文句が飛んでくる。


「先生、それは……?」


 ソフィが俺を見上げて呟くと、ちょうど効果時間の切れた障壁がきらりと光を放って消えた。


「隠し持っていて没収されなかった複合補助魔法陣。お前のおかげで起動できた。あとは俺に任せろ。 ちび、服を拾ってソフィーと離れていろよ。巻き添えを食らうぞ」


 警戒して一歩引いていたスラグの方を向き、傷が治ったばかりの左肩をぐるぐる回して、首を左右にゴキゴキと傾けた。


 さてと。


 非常用だから少し効果は弱いが、どのくらい動けるかはさっきの蹴りで把握した。


 推進、身体強化、感覚強化、持続跳躍。

 あとは確か、広域持続障壁が二枚、だったか。


 俺はソフィーのメイスを拾い上げた。

 追加で魔法陣を使うことはできないが、こいつらならこれだけで十分だろう。


 ふっと短く息を吐いて、俺は左前方の一体に駆け寄った。


 相手もこちらに身を乗り出し、パッと飛びかかってきた。


 俺はそれを左に避け、上から胴にメイスを叩きつける。

 めきっと骨の折れる嫌な音がし、スラグがうめき声をあげてたまらず伏せた。


 その上からもう一体のスラグが飛びかかってきたが、今度はそれよりもさらに高く跳び上がり、前転しながら頭上を越え、背中にメイスを打ちつけた。

 その衝撃でそいつは倒れた味方のスラグを後ろ脚で踏みつけ、そのまま走り抜けた。


 踏みつけられたスラグは、折れた肋骨ろっこつかばいながらよたよたと立ち上がるが、その場からは動けないようだ。


 好機とばかりにそのスラグに襲いかかり、右ほほに向けて両手で持ったメイスをフルスイング。

 ギャッと一声鳴いて倒れたスラグは、ピクピクと体を痙攣させ、力尽きた。


 その向こうで、もう一体のスラグは、低く唸り声をあげたままこちらを伺って動かない。


「先生!」


 突然、ソフィーの悲鳴が上がった。


 大丈夫、分かっている。背後から、最初に吹っ飛ばしたスラグが接近しているのは。


 噛みつこうと近づいた口元に、振り向きざまに逆にメイスをぶつけてやる。

 あごが砕け、自慢の牙が折れて飛び散った。

 倒れたそいつの頭を殴り、とどめを刺す。


 ピッとほほに飛んだ血を親指で拭いながら、次はお前の番だぞと、離れていたスラグに目を向ける。

 するとそいつは、尻尾を丸めて後ずさりし始めた。


 逃がすかよ。


 俺はたっと駆けだし、身をひるがえしたスラグの後ろ脚を叩きき折った。


  一度地に伏したそいつは、三本の脚で立ち上がり、なおも逃げようとするが、振りかぶったメイスがそれを許さなかった。


 三体を片付けて振り返ると、左手には腰を抜かしたようにぺたりと座るソフィと、その横で中途半端に服を着ているちびの姿が見えた。

 ちびの片手はソフィの腕をつかんで引き上げようとしているが、ソフィが動こうとしない。


 離れてろって言ったのに。


 右手には、たくさんのスラグに囲まれながら、口元に笑みを浮かべながら踊るように剣を振るっているリズと、その横で次々に魔術をくり出しているシャルムがいた。


 スラグの攻撃が多くて押されているように見えたが、ほとんどを障壁が防いでいるため、よく見れば余裕がありそうだ。


 ちょうど、剣を横ぎにしたリズが勢いのままこちらを向き、あごで「来い」と催促をした。


 なまけ心を見抜かれたか。と苦笑して、メイスを握る手に力を込めた。


 揺れてひび割れた大地を強く踏みしめ、ぐんっと体を引き上げるようにして跳ぶ。


 根が緩んで傾いた木の枝に乗り、ぐらりと倒れる前にさらに跳躍。

 落下の勢いを乗せてメイスを振り下ろしたのは、シャルムたちに群がるスラグのうちの一体。


 胴体をぐしゃりと潰し、血で濡れた地を踏みつけて、次のスラグへと走り寄る。


 いきなり現れた俺に動揺を見せたスラグたちの一体は、すぐにリズの剣の餌食えじきとなり、俺は向かったスラグを沈めた。


 シャルムの放った雷が二体を直撃し、ひるんだそいつらはリズがしとめ、横から割って入ってきたスラグは俺が相手取る。


 もはやどちらがどちらを襲っているのかわからない。


 いつの間にやらシャルムは障壁を張るのをやめ、背中合わせで戦う俺とリズが近接、シャルムが遠距離を担当するという、以前と同じ役割に自然と落ち着いた。


 そのことに気がついたときにはもう残りは一体となっており、リズが派手に腹を切り裂いて、戦闘は終了した。


 辺りは急に静寂に包まれた。


「すごい……」


 そこにぽつりと落ちたのは、ソフィの呟き。


 ソフィは結局、地を揺らした場所から動かなかった。


 ちびが「引っ張っても動かなかったんだから仕方ないよね」という顔で首に引っ掛けたままだった服に腕を通していた。

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