第113話 普通

 協会に行き、チュリにたずねるが、まだシャルムたちは来ていなかった。


「――そんなことより、何なのあの二人は。金髪の女の子は超かわいいし、赤髪の男の子も超かっこいい。あんな美形をどうして連れて歩いてるのよ」

「金髪の方は俺の弟子、赤髪は……まあ同じようなものだ。俺が面倒を見ている」

「弟子!? ノトが弟子? どういう風の吹き回し? それに、一体何がどうなればあんなかわいい子がノトの弟子になるわけ? まさか手を出したりしてないでしょうね?」

「出すわけないだろ。まだガキだぞ」

「子どもじゃなきゃ弟子に手を出しちゃうつもりなの? それに、男を世話してるってどういうこと? なんで自分で働かないの? 貢いじゃってるわけ? あ、あっちが本命なの?」

「んなわけあるか。色々事情があるんだよ」

「その色々な事情が知りたいの。教えてよ」


 矢継ぎ早の質問におざなりに答えるが、質問は止まらない。


 ソフィとちびは入口近くに待たせているのでこちらの会話は聞こえていない。

 聞かれて困るような内容を話しているわけではないが、なんとなく厄介なことになる気がした。


 というか、あいつら談笑しているが、一体何を話しているんだ?

 ちびはまだ話せないのに、どうやって会話を成立させているんだろうか。


「――ねえ、ノト聞いてるの?」

「悪い、聞いてなかった」

「ちょっと! だからね、演習なんですかって騎士団の人に聞いてみたんだけど、やっぱり森から大きな獣が出てきてるんだって。しかも噂は本当で、女王陛下のご加護が効かなくて、街に入ってくるかもしれないからって、街の前で警備をしているらしいよ。それにね、その獣、どこから来たかわからないんだって。来た跡をだどってみたら、途中で痕跡がなくなっちゃうって。それで、調査チームを増やすことになったんだけど、特審官は協会員を使わずに、独自にチームを作るらしいよ」


 チュリの発言に俺は目をむいた。


 午前の会議の内容がもう漏れている。

 騎士団の情報統制大丈夫なのか?


「もしかして、特審官の調査チームって……」


 チュリの視線が入口に向いたので、俺も目を向けると、ちょうどリズとシャルムが入ってくるところだった。


「おう。待たせたな」

「いえ、今来たところです」


 これで解放されたと安心したのも束の間、「野暮用があるからもう少し待ってろ」というシャルムの言葉に絶望する。


「やっぱり。ノトがチームに入るのね? 何でそんなことになるの? だってノトって……あら? ノトの職業ってなんだっけ?」


 チュリの言葉に苦笑を返す。

 魔法陣師だなんて言ったら、あっという間に広まりかねない。


「それにしても……五人が揃うとなると、ノトだけ浮いて見えるわね。美男美女揃いの中で、一人だけ普通だもの」

「普通で悪かったな」


 薄々感じていたことをずばり指摘されて、ちょっと心が傷ついた。


「ノト、行くぞ」


 二階から降りてきたシャルムに声をかけられる。

 もう少し早く来てくれたらチュリの心無い言葉を聞かなくて済んだのにと、心の中でため息をついた。


「ノト、あとで話聞かせてね」


 チュリがこちらに向かって手を振った。





「なあ、あいつ、どうにかならねぇのか?」


 大型のスラグの跡をたどって森の中を進みながら、リズが後ろをちらちらと見て呆れたように言った。

 

 俺も目を向ければ、ちびがソフィの背後に隠れるようにして、小さく縮こまりながらついてくる。

 前を行く三人と、後ろの二人の間には結構な距離が開いていた。


「なんでかリズを怖がるんですよね」


 協会では、いつの間にか壁の隅っこで頭を抱えて丸まっていた。

 森に移動する馬車に乗るときも、リズと同じ馬車に乗ることに激しく抵抗し、ソフィがつきそってに別の馬車に乗ることになった。


 おかげで三人だけでソフィとちびの現状について話せたから、結果的にはよかったのだが。


「シャルに対しては普通なんだよな」

「ドラゴン討伐のときのことがトラウマなんじゃないですか?」

「トラウマつったって、殺せって言っていたのはシャルだし、喉を潰すだとか物騒なことを言ってたのはノトだろ」

「単に顔が怖いとか」

「殴るぞ」


 言ってリズは剣を抜いた。

 俺もそれに呼応するように剣を抜く。


 そして背中合わせになるように左右に体を向けると、飛び出してきた獣をそれぞれ一刀両断にした。

 シャルムは意に介さずに、どんどん前へ進んでいく。


 後ろでは、合流すべきなのに怖くて前に出られないというように立往生しているちびの代わりに、ソフィがメイスで獣を二体ほふっていた。


「あいつ、魔術師なんだよな?」

「さっき言ったじゃないですか。魔術師ですよ。金髪ですし」

「あのメイス、結構な重さあるよな」

「それもさっき言いましたけど、重いですよ」

「師匠が師匠なら弟子も弟子だな」

「やめて下さいよ。俺は普通です」

「お前が一番特殊だろうが。魔力ゼロの魔術師なんて」

「リズに言われたくないです」


 シャルムに置いて行かれないように足を速めながら、俺とリズはこそこそとどうでもいい話をしていた。

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