第102話 毛玉

「しっかしこりゃ武器がないのはつらいな」


 狼の形をした獣を蹴り飛ばし、クソ長い蛇を掴んで振り回す。

 イノシシは猛進してきたところを避け、足を引っかけて転がした。六本ある脚のうち一本を握り、木に投げ飛ばす。


「剣が、欲しい、ですわねっ!」

「間合いが短いし打撃だと致命傷になりにくいんだよな。って、お前はそれで充分だろ……」


 ソフィはいつの間にやらガジェリコの枝を手にしていて、獣の頭を文字通り粉砕していた。


「先生も棒術を使えばよろしいのでは」

「棒術はあんまり得意じゃない。それならまだ素手の方がマシだ」

「そうなんですの?」


 殺傷力のある剣ならまだしも、そうでないなら、手がふさがる武器は破砕器を使う俺とは相性がよくない。


 一番使い勝手がいいのはナイフだ。

 その辺に仕舞っておけるし、大小様々揃えておける。切ってよし、投げてよし。投げたまま行方不明になることも多く、消耗品になってしまうのが痛いところだが、それは数で補える。


 かといって、トラマド石を割って作っても鋭さも硬さも足りなくて、使い物にはならないだろう。

 ダマルダル石はあれきり見つからないし。


「先生、そろそろ日が暮れますわ」

「ん、ああそうだな」


 昼飯を食ってからゴラッドに向かってずっと移動し続けてきたが、日もだいぶ傾いてきた。

 今夜の寝床を探さないと。


「ちび、この辺に強そうなやついるか?」


 ちびは、腕を組んでうーんという顔をしたあと、あっち、と一方向を指さした。


「よし。行くぞ」

「え、先生、わざわざそっちに行くんですの? 離れるのではなくて?」

「縄張りのボスを倒せばしばらく他の奴が寄ってこないからな」

「なるほど……じゃありませんわ! ちびさん、止めてくださいまし!」


 ちびを見ても、いいんじゃないのという顔しかしない。


「ちびさん!」


 ソフィが抗議の声を上げる。


 俺も人間のちびとの付き合いは短いが、ドラゴンの時の付き合いは長い。表情を読めるのは雰囲気がなんとなくわかるからなのだと思う。

 だがソフィはまだ数日だろう? なんでわかるんだよ。


「ほら行くぞ。俺は夜中に一人で何度も撃退するのは嫌なんだよ」

「わ、わたくしが先生の代わりに見張りをします! 弟子として!」

「あほ」

「痛っ」

「お前一人じゃ対応しきれないだろ。それに、寝不足は美容の敵だ」

「先生、まさかわたくしをそんな目で? 師弟の禁断の愛……!」


 ソフィがはっとしたように、口を両手で隠して一歩引いた。


「あほ」

「痛い! ひどいですわ! 二回もぶつなんて!」

「俺はガキには興味ない。馬鹿言ってないで行くぞ」

「ああっ、置いて行かないで下さいまし!」




「先生、なんですの、あれは!?」

「俺にもわからん!」

「起こしたのは先生ですのよ! なんとかしてくださいまし!」

「無理だろ! あのサイズは無理だ!」


 俺たちは、大木よりもでかい丸くてふわふわした白いモノに追いかけられていた。

 綿毛のように柔らかそうなのに、みしみしと木を折り倒しながら進んでくる。踏まれたらぷちっと行くだろう。


「ちび! あいつこの辺のボスどころか、ここらへん一帯のボスだろっ! なんであんなのの前に連れて来やがった!」


 ちびは全速力で走りながら、えー強いやつって言ったじゃん、と口をとがらせた。


 こいつ体の使い方上手くなったなあ。

 さっきも狼に頭突きかましてたし。


「あいつたぶん水か火に弱い。ソフィ、出番だぞ。手加減しなくていいから思いっきりぶちかませ!」

「無理ですわ! こんなに走っている状態で呪文なんて!」

「だよなあ」


 魔法陣が使えればこんなの目じゃないんだが。


「せんせー」


 見ると、ちびがびしっと片手を上げていた。

 そうか。ちびがいた。

 自信がありそうだし、やらせてみるか?


「行けるか?」


 こくりとちびがうなずく。


「そんな、ちびさんじゃ……!」

「大丈夫だから。ちび、できるよな?」


 再びこくりと頷くちび。


「じゃ、よろしく! 無理すんなよ!」

「ちょ、先生!」

「いいから、ちびに任せとけ!」


 ぴたっと立ち止まったちびに釣られて速度を落としたソフィの腕を引く。

 ドラゴンを見せるわけにはいかないんだよっ。


「ちびさん!」


 ちびは背中を向けたまま、片手を上げてソフィの声に応えた。


「いいから早く来い!」


 なおも速度を緩めようとするソフィの腕をさらに強く引いた。


 その時――


 クアアアァァッッッッ!!!


 ドラゴンの叫び声が鳴り響き、次いで襲って来たのは熱風だった。


「ちびさん!?」

「こりゃあまた、派手にやったなあ」

「これ、ちびさんが……?」

「たぶんな。俺もまさかあんなの出してくるとは思っていなかった」


 普段見ていたのはこぶしくらいの大きさで、でかいのをと頼んだ時も、人間サイズの炎を生み出すのが精々だったんだが。

 まさか木立と同じ高さの火柱が上がるとは。

 ダメ元だと思っていて悪かった。


 火柱はすぐに鎮火し、来た方向に少し戻ると、ぷすぷすと煙を出している黒焦げの塊の横で、腕を組んでドヤ顔をしているちびがいた。


「ちびさん、すごいですわ!!」


 ちびは、偉そうに、ふんっと鼻を鳴らした。

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