第95話 迎撃

 ちびがスガルーの茎とツリルリの花を持って戻ってきた。

 狩りの時に辛抱強く教えた甲斐があったな。


「よし。ちび、少し離れて見張りをしてろ。ついでに出してこい」


 ちびはピシッと片手を上げて了解の意を示すと、ててーっと走っていった。


「出して来いってなんのことですの?」

「ウンコだ」

「……」

「お前も今のうちに行ってこい」

「だ、大丈夫ですわっ!」

「戦闘中に漏らしても知らないぞ?」

「~~~~!! 行って参りますっ!」


 顔を真っ赤にしてソフィはくるりと後ろを向いた。


「ちょっと待った」

「なんですのっ!?」

「これに火をつけてくれ」

「この枝にですか?」


 ソフィは差し出した棒の先端を囲むように両手をかざし、呪文を唱えて火をつけた。


「さんきゅー。行って来ていいぞ。長くならないようにな」

「なりませんっ!」


 ソフィは茂みの向こうに消えていった。


「あんまり遠くに行くなよー!」

「わかっておりますっ!!」


 さて。

 矢を作ろう。


 今頃ちびはドラゴンに戻ってのほほんと休んでいるだろう。

 もしかしたら腹ごしらえでもしているかもしれない。


 そう思いながら、スガルーの茎の先端にトラマド石の欠片をあてがい、セラスのまゆから引き出した糸で重なった部分を覆った。

 そこを火で炙ると糸が粘りを持ち、火を離すときれいに接着された。


 それを素早く何本も作っていく。


「あの、先生、こんなにのんびりしていて大丈夫なのですか? 追手が……」

「もう戻ったのか。早かったな」

「その話はもうおよしになって下さいませんか!?」

「悪い。で、追手の事だが、まだしばらくは大丈夫だ。徹底的に潰してきたからな。誰かが様子を見にいかなければ外からはわからないし、わざと殺さずに瀕死にしといたから、半分そのまま死んだとしても、息のある者を救護するだけでも大変なはずだ」


 ソフィがあからさまに顔をしかめたが、何も言わないので続ける。


「追手がご加護をたどっても俺たちはそこにはいない。街の中の捜索と並行して森を探すのであれば、あまり人員を割けないから、広範囲は探せない。ちょっと森に入るだけで、かなりの時間稼ぎが出来るんだ」

「……手慣れてますのね」


 呆れたようにソフィが言う。


 そりゃあ、あんなことやこんなことをしてきたからなあ。

 身バレしたのは今回が初めてだ。


「ほら、お前も手伝え。巻いて熱で接着するだけだ」

「矢じりも不ぞろいですし、こんな適当につけたらバランスが狂ってしまいますわ。矢羽もないんですの?」

「至近距離で射るからいいんだよ。毒をお見舞いするのが目的だ」


 よくわからないという顔をしながらも、ソフィは器用に矢を作り始めた。


 俺はその間に、カツルの枝に割いたガムのつるを張って弓を作り、砕いたダマルダル石とちぎったツリルリの花をすり潰して毒を作った。


「せんせー!」


 大体の準備が整ったころ、ちびが両手を振りながら走ってきた。

 どうやら追手が来たらしい。


 適当に矢じりに毒を塗りつけ、指示を出す。


「ソフィ、ちびと一緒に森の奥へ。感知されない位置まで離れて待機。万一獣が来たら出来るだけ枝で対処。無理だったら魔術を使っていい。やりすぎないようにな」

「わかりました」

「ちび、ソフィを頼む。ここではお前の方が役に立つ。もし危ない獣が来たら応戦していい」


 ちびはうなずきながらその場でぴょんぴょんと跳ねた。

 攻撃はまだ得意ではないが、ドラゴンに戻れば少なくとも防御力は上がる。

 ソフィに隠せなくてもいいぞと伝わっているといいのだが。


「んじゃ、二人とも、後でな」


 俺は弓矢を抱えて跳び上がり、掴んだ枝に片腕で体を引き上げた。

 そのまま枝を伝ってちびが示した方へ移動する。


 後ろでは、二人の気配が離れていった。


 



「ぐあっ」

「木の上だ! 木の上にいるぞ! おい、大丈夫か? これは……!」


 警戒しながら探索している二人一組の憲兵たちにそっと近づき、真上から毒矢を静かに放った。


 矢は多少ぶれるが、目と鼻の先で射っているから、狙いを外すことはない。

 よろいに覆われていない太ももをや尻が狙い目だ。顔に当てられればなおよい。


 鋭さはないため傷は浅いが、傷口がすぐさま黒っぽくれていく。

 毒だと気づいた片割れは、慌てて魔術師を呼ぶ。


 俺は別の場所からその男にも矢をお見舞いした。

 近づいてきた魔術師にも撃ち込む。


 それは障壁に弾かれるが、まあいい。

 どうせ治療で手がふさがるだろう。


 そうやって、次々に憲兵たちを無力化していった。

 報告に走ろうとした憲兵や、信号弾を打とうとした魔術師は優先的に狙う。


 しかしついに、空に細い火柱が上がってしまった。


 あちらには魔術師は行っていないはずだが。


 ――魔石か。


 この辺が潮時だな。


 外れるのを覚悟で色々な方面から残りの矢を撃ち込み、敵を撹乱かくらんしてからソフィたちの方へ移動した。


 これでまた向こうは警戒して動けない。

 信号弾で増員されるだろうが、獣と俺たちを警戒しながら探索するのは大変だろう。

 俺たちはその間に距離を稼ぐ。

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