第78話 出立

「そろそろ行くか」


 日がすっかり上り、朝食を出す店が開き始めたころ、ちびに声をかけた。


 ちびは決意も新たにという顔で、すっくと立ちあがった。


 まだ顔は引きつっているが、来た時よりは落ち着いたようだ。


「人の間を通るからゆっくりな」


 せわしなく動き回っている人々にぶつからないよう、ゆっくりとした足取りで進んでいく。

 中心部に近づくにつれて人が多くなっていき、すそを握りしめる力が強くなっていくが、思ったよりも平気そうだった。


 一度知り合いに出くわして話しかけられたときは、泣きそうな顔をした後にうつむいて背に隠れていたが、なんとかやり過ごせた。


「ここだ。前から言っている通り、お前は黙っていればいいからな」


 宿屋の前で一度足を止めると、こくりとちびがうなずく。


 店主に断って階段を上り、ソフィの部屋の前に立つ。

 もう一度ここで間を取った。


 そわそわしているちびが少し落ち着いたタイミングを狙って、コンコンと木戸を叩く。


 ソフィはすぐに出てきた。


「お待ちしておりましたわ」


 扉の陰から首だけ出して答えたソフィは、後ろのちびに目を止めて「あら」と言った。


「説明するから、まずは入れてくれ」

「どうぞお入りになってくださいませ」


 含み笑いが気になる。


「こいつはだな……」


 部屋に入り、ソフィとの間に俺を挟むようにして一緒に入ってきたちびを背にかばいながら、頭をかきつつ伏せていた顔を上げ――絶句した。


「……なんつー格好してんだよ!?」


 扉に隠れて見えていなかったが、ソフィはとんでもない服装をしていた。


 豊満な膨らみの下半分だけを覆った紺色のビキニトップには肩ひももなく、その伸縮性と包まれているものの弾力だけでその位置に留まっていた。

 腰骨の下には同じ色のガーターベルトが巻いてあり、その紐が白いニーソックスを引き上げていた。

 重ねられたオーソドックスな形のビキニボトムのさらに上には太い革ベルトが斜めにかかっていて、細身の剣が下がっている。

 足首丈のブーツだけが唯一まともだった。


「どこかおかしいですか?」

「どこか、という問題ではない。全体的に露出が多すぎる」

「でも、王都ではこのくらい普通で……」


 流れ者の中には、過度な露出を好む者もいる。

 が、百戦錬磨の彼女たちがするならばかっこよくも見えるだろうが、まだまだ子どもですといった顔で、ろくに鍛錬もしていない体をたださらしても、男を誘っているようにしか見えない。


「俺はそんな格好をしている女を連れて歩く気はない」

「ですが、先生はこういうのがお好みなのかと……」

「なんでそうなるんだよ」

「あの、ミリムで先生がお待ちになっていた方が……」


 リズか。


「あれは俺の趣味なわけではないし、上だけだっただろうが」

「それに、店の主人も似合っていると褒めてくださいました」

「エロオヤジの言葉をうのみにしてどうする」


 鼻の下を限界まで伸ばしていたに違いない。


「とりあえず普段着に着替えろ。話はそれからだ」



 一度部屋を出てソフィの着替えを待ち、再び部屋に入った俺は、ちびを紹介した。


「この間は……妙な誤解を招くのを避けようと嘘をいたんだが……色々あって、面倒を見ている。事故で記憶をなくしていて、言葉も話せない。戦力にもならないが、こいつも王都に連れて行く」

「まあ」


 ソフィのにやけ笑いが収まった。


「記憶がないせいもあってか、見た通り極度の人見知りだ。あまり構わずに放っておいてやってくれ」


 ちびは相変わらず俺の背中から離れようとしない。

 体格がほとんど変わらないから全く隠れられていないのだが。


「お名前は?」

「ちびと呼んでいる」

「ちび? 小さな方ではないのに、なぜですの?」

「な、成り行きで」

「そうですの。わかりましたわ。ではちびさん、これからよろしくお願いいたします」


 背後でちびがこくりとうなずいた。


「挨拶も済んだし、飯に行くぞ。その後は服屋で装備の買い足しだ。あの服装は許さん」




 俺とソフィと店主の三つどもえの争いの後、白いノースリーブのブラウスと水色のミニスカートを買い足し、ブラウスの胸元を開けてビキニトップをちら見せするところで妥協した。

 

 縦ロールの金髪をツインテールにして剣を差せば、見られなくもない範囲に収まった。



 はあ。

 これでやっと出発できる。


 ちびも大丈夫そうだし、このまま連れて行くことに決めた。


 魔力ゼロの魔術師と、実はドラゴンの男と、勘当された令嬢の三人組。

 この中で一番まともなのがソフィというのが、パーティの異常性を示している。


 またも前途多難な予感がする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます