第二部

プロローグ

第64話 ぱくり

「ちび~。どこ行ったんだ~。暗くなるからそろそろ帰ってこいよ~」


 夕方、日が落ちてきた森の中で、俺は飼っているちびドラゴンを探していた。


 森にいる獣は家の周りは俺の縄張りであることを知っているから、遠くにいかない限りは危険はない。


 そう思って放し飼いにしていたのだが、今日は探しても見つからない。


 いくらドラゴンといってもまだ小さな子どもであり、炎だってろうそく程度のものしか生み出せない。

 好奇心に負けて奥まで踏み込んでしまえば、そこを縄張りとしている大型の獣にやられてしまうこともあり得る。


 それに……森を出て人に危害を加える可能性だってあるのだ。

 餌はたっぷりあげているし、俺以外の人を怖がるようなしぐさを見せているから、自分からわざわざ近づくようなことはないと思うのだが。


 胸騒ぎがする。


 愛着がないわけではないが、いずれは討伐しなくてはならない対象だ。

 弱肉強食の世界で負けてしまうのならばそれまで。


 だが……。


「だ、誰かぁぁぁ! 助けてくれぇぇ!」


 森の奥の方向、すぐ近くで悲鳴が上がった。


 なんでこんなところまで人が……!


 走りながら腰のナイフを抜き、ポケットに突っ込んであった破砕器を取り出す。


 茂みを抜けた先、木の影から見えたのは、腰が抜けたように座ったまま後ずさりする普段服の男が一人。


 男の目の前にいたのはちびだった。


 ほっと息を吐く。


 ちびは口を大きく開けて威嚇していたが、怯えているのだろう、腰が引けてしまっている。尻尾もくるりと胴体の下に入り込んでいた。


「ちび、こっちへ――」


 来い、という間もなく、突然ちびの体が膨らみ、大人三人分ほどの大きさになると、ぱくりと男を頭からくわえこんだ。


 え?


 ひぃっと男から漏れた悲鳴が頭に鳴り響く。


 ちびドラゴンはぺろりと舌で口を舐めると、こちらに目を向けて、大きな口を開けた。


 暖かい湿った空気が顔に当たったかと思うと一瞬にして視界が暗くなり、ああ今俺は食われたんだと自覚した。

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