第53話 秘密

 すぐにシャルムが回復魔術をかけてくれ、炭化は免れたものの、靴がなくなってしまった。

 シャルムのローブの一部を切り取らせてもらい、足に巻いて応急処置とする。


「ノト、大丈夫か?」

「なんとか」


 リズが心配して声をかけてきた。それに笑顔で答える。


 傷は綺麗に治ったが、一度頭に走った痛みはなかなか消えず、脳の一部がしびれているように感じた。


「シャル、こうなりたくなきゃ逃げろ」

「嫌だ」

「ノト」

「無理ですね。走るエルマキアから飛び降りようとしたくらいですから」

「シャル、聞きわけろ」

「聞きわけていないのはリズだ。わかっているだろ? 逃げなきゃいけないのは、僕ではなくて、リズの方だ」

「それは……」


 リズが言いよどむ。

 そしてドラゴンが攻撃してきたのを見て、はっと前へ出た。


「シャルム、援護を」


 俺も前へ走り、炎の球は魔法陣で防ぎ、二人でドラゴンの攻撃をくぐり抜けて懐に入った。


 リズは脚の間を抜け、体を回転させる勢いでかかとを切りつけた。が、ギリィとうろこに弾かれてしまう。

 背中側は大した攻撃をしていないので、鱗はほぼ無傷なのだ。脚のけんをぶった切ることができればだいぶ楽になるはずなのだが。


 ぶぅんと振られた尻尾を、体をひねったドラゴンの正面に回り込むことでかわす。


 その様子を眼下に見ながら、俺は跳躍しながら短剣を放った。落下しながら、刺さっている剣と全ての短剣に雷撃。


 最中さなかにシャルムの土塊による攻撃がドラゴンの眼前に炸裂する。


 でたらめに振られた前脚の攻撃は障壁で防ぎつつ、その勢いに乗って、やや離れた所に降り立った。


 サイドからの攻撃を仕掛けようとトリガーを構えたとき、チリリといやな予感がした。


「下がってください!」


 途端にドラゴンの首元の赤い球が光り始めた。


 ドラゴンの足下にいたリズがシャルムの元へと走る。


 まばゆいほどの赤い光が辺りに満ちたあと、ドラゴンの体からしゅうぅぅと白い煙が出たかと思うと、みるみる傷が回復し、その下から鱗が生えて来て、割れた古い鱗はボロボロとはがれていった。


「おい……なんだよあれ……」

「回復、したんでしょうね」

「回復!? なんじゃそりゃ。……つぅか、なんで水の性質を持つドラゴンが炎を使ってるんだ? あの首元の赤い球はなんだよ」

「……いまさらそれを聞くんですか?」


 抜け目なくドラゴンを見張りながら、ちらりとリズを見る。


「むしろこの期に及んで説明しねぇノトがおかしい」

「僕も聞きたい」

「……研究段階というか、極秘なんですよねぇ、これ」


 ドラゴンが炎塊を放ってきたので、それをけがてら、二人から離れた。

 しかしすぐに二人は追いついてくる。


「極秘とか言ってる場合か!? 国の危機だって言ってんだろうが」

「まあ……それはそうなんですけど……」

「寝言かましてる場合じゃねぇんだよ。さっさと説明しろ」

「簡単に言えば……」


 説明は、押し寄せる炎の波で中断された。


 俺が風で迎え撃ち、シャルムが水をかけ、リズが魔石で障壁を張った。

 性質は水だと思って準備していたから、魔法陣も魔石も水系が少ない。


 あふれた炎が髪を焼く。


 露出の多いリズはもっと大変そうだった。シャルムの防御魔術に守られているとはいえ、赤くはれた所が少し水ぶくれになっている。

 

 炎の波が収まり、視界が広がったそのとき、ドラゴンが突進してきたのが見えた。


 俺とリズはそれぞれ左右に身を投げ出したが、背の低いシャルムは気づくのが一瞬遅れ、体当たりをまともに受けて空を舞った。


「シャルッ!」


 魔術と魔法陣の障壁を合わせたようだが、踏ん張りがきかず、障壁ごと跳ね上げられてしまったようだ。


「リズはドラゴンを!」


 駆け出そうとするリズを制止し、推進を起動してシャルムの下に走り込んで受け止めた。その間リズは、ドラゴンを細かく斬りつけながら注意を惹きつけていた。


 シャルムは衝撃で意識を失っていて、くたりと力が抜けている。


 そこに炎の球がやってきて、シャルムを抱えたまま跳ぶ。


「シャルム、しっかりしてください」


 バシバシと頬を叩くも、目を覚まさない。


 思い切って、ゴンッと脳天に拳骨を落としてみた。


「っつぅぅっっ!」


 あ。起きた。


「大丈夫ですか?」


 両手を頭に当てて目をつぶってこらえているシャルムを下ろす。


「痛がっている所悪いんですが、今はそれどころではないです。体が大丈夫なら、戦線復帰してもらえませんか」


 言ったそばから再びドラゴンの炎での攻撃。

 でかいのが五つ飛んでくる。


 障壁はシャルムに任せ、俺はリズの加勢に入った。


 足に斬りつけたり、振られた前脚を斬りつけるも、完全に鱗に弾かれてしまう。

 刺さっていた短剣もほとんどが抜け落ち、なんとか残っている胸元の剣に雷撃をお見舞いするも、それほどダメージを負っているようには見えなかった。


「こんのぉぉっっ」


 がぶりと噛みつかれそうになったリズが、横にけて跳び上がり、ドラゴンの目に向けて剣を突き刺した。


 ――と思われたが、ドラゴンはリズをばしりと前脚で叩き落とした。


「かはっ」


 リズが地で大きくバウンドし、とさりと落ちる。

 間を開けずに、ドラゴンの前脚が、リズの上半身を踏み潰した。


「リズ……!!」


 

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