第50話 逃走

 結果がどうなったかを見る暇もなく、後ろを向いて高く跳んだ。

 爆風を背に受けて、ドラゴンから離れる方向、シャルムたちが向かっているミリムの方に流される。

 森の端がすぐそこにあるのが見えた。


 枝に飛び乗り、枝を伝ってさらに前へ。

 リズたちは見つからない。だが、逃げてはいるはずだ。


 あと二、三の跳躍で端までたどり着けるところというところで、後ろからバサリという音がした。


 空中で肩越しに振り返れば、ドラゴンがその翼を大きく広げた所だった。


 翼……!

 今の今まで忘れていた。


 そして、二回はばたくだけで、それは目の前にいて。


 横にいだ前脚が、俺が飛び降りたその木の上半分を、周囲の木を巻き込みながら消し飛ばした。


 対峙したドラゴンの前面は、鱗がバキバキに割れていて所々剥がれおち、水色の柔らかい皮膚がむき出しになっていた。しかし、本人のダメージはさほどでもないようだ。


 どしんどしんとドラゴンが近づいてくる。


 さっきのをもう一度……!

 だめだ、近すぎる。


 顔に向かって続けざまに炎球を放ち、水槍を皮膚が露出したところに突き刺し、地をうねらせて体勢を崩そうとするが、全くもって効いている様子はない。


 近づいてきたドラゴンが、右、左と前脚で攻撃してきた。


 姿勢を低くしてそれをかいくぐり、懐へ飛び込む。

 鱗が大きく剥がれ落ちている部分に両手で思いっきり剣を突き刺す。


 ギャァとドラゴンが一声鳴いて、ごぷりと血があふれた。

 

 浅い。

 でもこれならどうだ。


 剣を手放し、電撃を放った。

 バチバチと紫色をした雷は剣に吸い込まれるようにして流れ込み、内部からドラゴンを焼いた。

 傷口が焦げつき、肉の焼けるにおいが漂った。


 グギャァァァッ!


 ドラゴンが悲鳴を上げ、その場でどたどたと暴れまわる。

 素早く剣を引き抜き、ぶんぶんと振られる両腕をかわしながら下がると、左右に出現した炎の塊に挟まれた。


 障壁っ!


 熱風に皮膚をあぶられながら、ナイフを五本投げつける。

 二本は鱗にカキンと当たって弾かれたが、三本刺さった。


 雷撃!!


 さっきよりもずいぶん浅い一撃になってしまったが、ドラゴンがひるんだ。

 その隙に、ドラゴンとの間合いを広げる。


 しかし、グルルとドラゴンの喉が鳴り、俺の背後に、身長と同じくらいの大きさの火塊が現れた。


 魔法陣の起動が間に合わない。

 狭域継続障壁二枚が防いだが、その勢いで、前方、ドラゴンに向かって飛ばされた。


 落ちた先は、ドラゴンの目の前。

 片手を地につけ前転をして勢いを殺し、持ち上げられた後ろ脚に踏み潰される前に横に転がった。


 剣が邪魔だ。

 こういうでかいのは網や弓に限る。せめて槍が欲しい。


 ドシンと思ったよりも地が揺れて、踏み潰し攻撃の威力におののくが、その後、持ち上げたあとに土がかぎ爪で大きくえぐられているのがまた怖い。


 踏まれて障壁が壊れたあとにあれを食らったら、肉が骨ごとごっそりいくだろう。


 素早く起き上がって反対側の脚の後ろに回り込み、かかとの辺りを斬った。

 しかし、鱗でギリンと刃が滑ってしまう。


 後ろに飛び退けば、体の捻りと共にくり出されるのは尻尾の一撃。


 今度は刃を盾に耐えきった。刃を滑らせてて下をくぐり抜け、やり過ごす。


 またチリリと嫌な予感がして横に跳べば、ごうと火柱が上がる。次々に地面から生えてくる火柱を、バック転でかわす。


 周辺はもはや森の中とは言えず、周りを木に囲まれた焼け野原と化していた。

 

 放たれた炎球を障壁で弾き飛ばし、跳躍を重ねて大きく飛び上がる。傾斜したドラゴンの膝を蹴り、胸元の鱗が割れている部分に突き刺す。

 剣を離して落下しながら雷撃を放ち、宙返りして着地。雷撃二枚で追い討ちをかける。


 上体がぐらりと傾き、ドラゴンはたたらを踏んだ。


 その顔面に、大きな土塊がいくつもぶつかった。


 シャルムか憲兵団の援護だろう。


 ドラゴンの体がさらに傾いていき、バランスを取ろうとして前脚をバタつかせている。


 剣を手放してしまったが、業物わざものというわけでもない。この隙に逃げよう。


 剣にさらに雷撃を叩き込み、きびすを返して森の端へと向かって走った。

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