第47話 起動

 水塊が俺の方とリズたちの方の二手に分かれて飛んできた。


 剣を横に構えて防御の姿勢を取りつつ、左手でつかんでいた腰の破砕機をホルダーから引き抜く。


 しっかりと握りしめ、バネ仕掛けのトリガーを親指で強く押さえ込み、弾く。

 持ち上がった撃鉄が勢いよく落ちて内部に詰めた魔石の欠片にぶち当たった。


 キィィン……と澄んだ音が鳴り、粉々に砕けた魔石は反対側の穴からキラキラと外へ舞う。空いたスペースに、カチャンと次の魔石が装填された振動が伝わってきた。

 と、同時に魔法陣が起動し、構えた剣の前に瞬時に半透明の青い障壁が現れた。


 障壁は向かって来た水塊を寸でのところで防ぎ、バシッバシャンッとぶつかった水と共に流れ落ちた。


 突破に備えて次の障壁を展開しようと身構えていたが、杞憂だった。最初は小手調べといったところか。


 リズも魔法陣で水塊を目前で防いでいた。

 教えた通り、ポケットから一枚引き抜いて指の間に挟み、体の前で起動したようだ。

 役目を終えた魔法陣は、記述に従って、見えない火で燃えているかのようにちりになった。


 後ろにシャルムが控えていてバックアップ体勢ができているとはいえ、効果を疑って逃げ腰になることなく、堂々と構えていたのはさすが。


「左手に持ってんのが起動装置ってわけか。しかも魔法陣を仕舞ったまま起動してんのな。どうなってんだ?」

「秘密です」

「後できっちり説明させてやる」

「秘密です」

「けっ」


 木の幹に隠れ、首だけ出してドラゴンの様子をうかがうリズの口元は、笑っていた。

 目がキラキラと輝いていて、さっきまでの青い顔が嘘のようだ。


 そういう俺も笑みを浮かべている。力不足を嘆くよりも、この方がよっぽどしっくりくる。


 ギィャァオォンッ!


 ドラゴンは、俺たちがいる辺りを狙って再び水塊を放ってきた。今度は人間の頭大だ。


 トリガーをパチンと弾き、跳躍を起動。

 飛び上がって木の枝につかまり、足を振り上げて枝の上へ。


 水塊は下を通り抜けていく。


「おっと」


 うち一つが幹にあたり、ゴリッと削って木を揺らした。


 後ろでまともに当たった木には、見事に大穴が開いていた。


「こりゃ一発でも食らったら終わりだなぁ!」

「ですね!」


 離れたところからリズが叫んできた。居場所はバレてるんだから、こそこそする意味はない。


 ドラゴンは次々に攻撃を仕掛けてくるが、俺はひょいひょいと避け、シャルムは障壁を展開してバシバシ防いでいた。


「ノト、あれ、魔法陣だよな?」


 避けているうちに近くまで来たシャルムに言われて、その視線の先のドラゴンの頭……の上の円盤を見る。


「わかりそうか?」

「ここからだと角度が悪くて見えません。解読どころじゃないです。近づいて見上げるか見下ろすかしないと」


 攻撃がきて、いったんリズが離れていった。シャルムは俺の後ろだ。


「妙だな。弱すぎる」


 ドラゴンの魔術は強力で、間髪入れずに放ってくるのは厄介だが、防ぐのもけるのも難しくない。


 無防備となった村や町が壊滅したというのはまだしも、実力者を揃えたであろう先発隊が全滅したという事実とはかけ離れている。

 ましてや国が滅亡する心配をするような相手ではない。


「さっきから魔術ばかりで、動かないのも気になります」


 木々が邪魔するとはいえ、さっきまでバキバキ折りまくっていたのだ。折れて鋭くなった部分が体に当たっているが、うろこがそれを弾いているらしく、痛そうなそぶりも見せない。


「とにかく、近づかないとどうにもなりませんね。補助魔術、消してもらえますか」


 関連があるとは思えないが、アルトでのことがあったので、一応、できるだけ魔術的なものは極力近づけないようにしようということになっている。


「本当に全部消して大丈夫か?」

「危なくなったら自前でなんとかしますから」


 シャルムが俺にかけた補助魔術を全部解いた。

 簡単に消せるのがうらやましい。魔法陣だとこうはいかない。


 シャルムの援護をリズに引き継いで、俺は一人で横に走った。体勢を低くとり、木々に隠れるようにして大きく回り込む。

 体が少し重い。


 ドラゴンからは見えていないだろうが、攻撃はしっかりとこちらにも飛んできた。当然気配は読まれている。


 水塊に突っ込む方向に向きを変え、いくつか避けつつ、最小限の障壁の展開ですれ違った。


 ドラゴンが完全にこちらに意識を向けた。

 水塊が飛んでくる。


 この距離で魔法陣を使うのは危険か。


 跳躍を使わずに、筋力だけで飛び上がり、斜め上の低い枝をつかむ。ぐるっと一回転し、水塊が枝の下を通り抜けたところで手を離して前方に飛んだ。


「ノトッ!」


 空中にいるそのわずかな間に、木々などものともせずに、ドラゴンはとんでもない速度で俺との距離を詰めた。


 ドラゴンが体をぐっとひねると、ぶぅんと音をさせて尻尾が左横から迫ってきた。


 マズい――!


 直前に枝をつかんでいたことが災いし、破砕機は左手になかった。ホルスターから引き抜く暇がない。障壁が、作れない。


「ぐぅっ!」


 尻尾が左脇にまともに当たった。

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