第40話 女王陛下

 かつて世界には白き者と黒き者がいました。

 白き者と黒き者は互いを憎み争っていました。

 それは世界を壊してしまうほどの熾烈しれつな争いでした。

 白き者と黒き者は傷つけ合い、たくさんの血が流れました。


 やがて白き者が流した血からは人が、黒き者が流した血からは魔物が、混ざった血からは獣が生まれました。

 人と魔物と獣は自らに流れている白き者と黒き者の血の力で魔術を使うことができました。

 白き者と黒き者は人と魔物と獣を愛しく思い、世界を壊さないように、争うのをやめました。


 しかしすでに多すぎる血が流れていました。

 大地は人と魔物と獣であふれ、住処すみか食料をめぐって人と魔物は争うようになりました。


 魔物は強靭きょうじんな体を持ち、本能のままに人を襲いました。

 か弱い人は集まり武器を持ち、魔術を発展させることでこれに立ち向かいました。

 しかし魔物は強く、かてとしていた獣も町や村を襲いました。

 人は眠れぬ日々を過ごしていました。


 そこに一人の少女が現れました。

 少女はまたたく間に世界中の魔物を一掃しました。

 人は喜び喝采かっさいを上げましたが、少女は大地に黒き者の血のある限り魔物はまた生まれてくるでしょうと言いました。


 時が過ぎると、少女の言った通り、世界にはまた魔物が現れ始めました。

 人はかつて少女だった女に、また助けて欲しいと言いました。

 女はできないと断りました。

 女の腹には新しい命が宿っていて、力はこの子を産み育てるために使うのだと言いました。


 一度味わった平穏な日々を失った人々は恩を忘れ、どうせ失うのならばつかの間の平穏など欲しくなかったと女を憎み責めました。

 女は人々の前から姿を消しました。


 そのうち一つの噂が人々の口にのぼり始めました。

 どこかに魔物を寄せ付けない国があると。

 そこでは獣も町を襲うことはなく、人は襲撃におびえなくてよいのだと。


 人々はその国を探し出し、どうか我々も国に入れてくださいと言いました。

 初代女王として国を治めていた娘は、母を迫害したあなた方を許すことはできませんと断りました。

 母は命をして、母を信じ母についてきた者のためにこの国を造り上げたのですと言いました。


 人々はその言葉にいきどおり、女王と、安穏あんのんと暮らしている国民に怒りをぶつけました。


 そして人々は、女王は黒き者の化身で魔物を操っているのだと言い始め、黒き者を倒すことを大義名分に、その安全な土地を奪おうと戦争を仕掛けました。

 国民は女王を守るためこれに抵抗しました。


 いつしか国民は、魔物から国を、獣から街と町と村とそれらを結ぶ街道を守る女王の力を「女王陛下のご加護」と呼ぶようになりました。


 女王が代替わりしても、代々の女王は綿々と続くその血の力をもって国民を魔物と獣から守り続け、国民は他国の侵略を退しりぞけて女王を守り続けています。


――「ターナリック建国の物語」より

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