第33話 勅命

 階段を上がると、リズが一室のドアを開けて待っていた。丸テーブル一台を六脚の椅子が囲んでいて、部屋の中で最も奥の、ドアと向き合う位置にシャルムが座っていた。


 シャルムはテーブルの上で手を組み合わせており、その横に、封を開けた封筒と、そこから取り出したと思われる紙が数枚置いてあった。


 リズがシャルムの隣に座ったので、俺は仕方なくドアから一番近い、シャルムを正面に見る位置の椅子を引いた。


 座るのと同時に、シャルムはテーブルの上の紙を一枚、すっと俺の方へ滑らせた。


 差し出されたそれを手に取る。

 紙は厚みがあるのにたおやかでつるつるしていて、インクがにじむことなく、伸びやかな筆跡がきれいに表れている。

 やけに良い紙を使っているな。


 えーっと、なになに……。


「一つ、ノト・ゴドールは、同行しているシャルム・ローイック特別審査官、及びその護衛と共に、すみやかにバルディア……? に向かうこと?」


「一つ、ノト・ゴドールは、バルディアの協会、及び憲兵団と連携し、すみやかにドラゴ……ン!? の元へ向かうこと……」


「一つ、ノト・ゴドールは、先のドラゴン! を観察……し、使用されている魔法陣についての報告……、 及び対処方法の立案!? をすみやかに行うこと」


「タ、ターナリック国、じょ、女王……アリステル・ターナリック……」


 ……。

 …………。


「えーっと……、なんなんですか、これは?」

「見ればわかるだろ。勅命だ」


 確かに女王陛下の署名が入ってるよ!?

 でも聞きたいのはそこじゃない!


 なんで俺の名前が書いてあんの?

 なんで俺が勅命を賜ってんの?


 しかもドラゴンて!

 観察と報告はともかく、対処方法の立案って何!?


 頭の中は大混乱だった。


「これ、シャルム宛てだったんじゃないんですか?」


 結果、全然どうでもいいことを聞いた。


「宛名は僕だった。が、中はどう見てもノト宛てだ。できるだけ早く確実に渡るようにするには、僕宛てにした方が都合がよかったんだろう」


 協会に行けば俺宛ての手紙がないか探してくれるけど、協会が俺を探さなきゃいけないなら、確かにシャルム宛てにした方が早い。ノト・ゴードンって誰だよってなるに違いないのだから。


「そして、これが協会宛てになっていた命令書の写しだ」


「一つ、全ての協会、及び憲兵団、及び街、及び町、及び村の長は、同封の封書を特別審査官シャルム・ローイックに渡したのち、もしくは本書簡が到着してから三日のどちらか早い時期に、別紙の命令を国民へ通達すること」


「通達。別に命令がない限りにおいて、全ての上級魔術師、上級剣士、及びそれにるいするものは、街、及び町、及び村から出ることを禁じる。街、及び町、及び村の長は、十分な備蓄、及び各種通達のすみやかな伝達に努めること。流通を担うものはこれを助けること」


 これは……。


「これは、いわゆる、第一種警戒宣言ってやつですよね……」


 大規模災害時、疫病の大流行、他国の侵略行為、そのほか国家及び国民に重大な影響が及ぼされる可能性が極めて高い場合に宣言される。

 

「すみません、理解が追い付いてなくて、何が何だかわからないのですが」


 シャルムが、バンッとテーブルを手のひらで叩いた。


「ドラゴンにおびやかされているからそれを調査してこい。他の奴らは緊急事態に備えて準備しろ。ということだ」


「ああ、そうですよね。ドラゴンが。元々ドラゴンのところまでついて行く依頼でしたもんね。こんなに早くなるとは思っていませんでしたけど。……でもこれ、なんで俺が主体になってるんです? シャルムに同行するだけのはずでしたよね」


 リズが、はあとため息をいた。


「ノト、お前、洞窟にいた、あのでけぇタタナドンを倒したんだってな」

「な、なぜそれを……!?」

「支部長が言ってたぞ。どこのどいつかわかってねぇそうだがな、あたしたちの後には、黒髪の剣士しか洞窟ん中に入ってないんだと。黒髪自体珍しい上に、あのタタナドンを倒せるようなやつがその辺にほいほい転がってるわきゃぁねぇんだ。ノトが特級剣士とは知らなかったけどなぁ?」

「そ、それは、向こうの勘違いじゃ、ないですかねぇ? 俺は魔術師ですよ。剣士ではありません」


 あはは、と誤魔化しておく。


「まあいい。相手の勘違いということで、深くは追求しない。洞窟から出たあと、魔法陣の報告書を王都に送ったな? それが関係しているんだろう」

 

 誰かが描いた、悪意を持った魔法陣。魔法陣師を探していた男たち。魔法陣が関係しているというドラゴン。


 これらはつながっているのだろうか。


「さて、やっとノトは理解できたようだから、急いで出発するぞ。報告書の内容は、その間に聞く」

「出発って、どこへ?」


 シャルムとリズは、心底理解できないという顔をした。


「バルディアに決まってるだろうが」

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