第30話 アルト再び

 襲ってくる獣を蹴散らしながら、俺たちは森を突っ切った。


「方角は、はぁはぁ、あってるん、だろうなっ?」

「シャルムが間違っていなければ」

「僕のせいにするのか!?」


 シャルムは攻撃せず、補助魔術を使っている。連続で使う必要がないからほとんど走っているだけだが、魔術師さまには長距離走はきついらしい。


 その横で、リズは縦横無尽に剣を繰り出していた。少し離れた場所にいる動物まで、走り寄っては嬉々としてぶっ潰している。


 無駄な殺生はしない方が……。


「ノトぉ、こいつら寄ってこねぇような魔法陣とかねぇの?」

「できなくはないと思いますが、一日二日でできるものではないですし、インクにもこだわらないと難しいです。現実的ではないですね」

「ちっ。使えねぇな」

「はは……」


 そういう俺は、枝をつかんで振り子の要領で飛んだり、枝の上を走ったりして、大物を見つけては飛び降りざまに攻撃していた。


「体が小せぇ訳でもねぇのに身軽だな」

「森の側で育ちましたから。毎日狩りをしていました。といっても、もっぱら網や罠を使うので、剣だけを振り回したりすることはあまりありませんでしたけど」

「どうりで、どこの流派のものでもねぇ独特の剣筋になるわけだ。つーか剣術じゃねぇもんな」

「試験の時、相手の頭の上を飛び越えて蹴りを入れたら怒られました。それも相手が名家のご子息さまで」

「そりゃあ、剣術試験で体術使っちまったら相手はご立腹だろうよ」


 ぐふふ、とリズは意地悪そうな顔で笑った。


「試験って、はぁ、何のこと、だよ? はぁはぁ」

「こいつ、騎士見習いの試験、魔力試験で落ちたんだってよ」

「うえっ!? 落ちっ、げほっ、げほげほっ! ちょ、ちょっと待っ、げほっ」

 

 俺もそんなこと起こりようがないと思っていたさ。現実は無情だ。


「出口が見えてきました。森を抜ければ楽になりますから、もう少し頑張ってください」


「待っ、げほっ、はぁ、もう、はぁはぁ、無理……」


 ついにシャルムは膝から崩れ落ちた。


「ったくしゃあねぇなぁ。体力つけろっつってんのに」


 リズがシャルムを軽々と小脇に抱えた。


 ねえさんかっこいいっす。


「ノト、敵は任せたぞ」

「や、こんなに無理ですって」

「もうそういうの要らねぇから。弱いふりして楽すんのはやめろ」

「楽してるわけじゃ……」

「はいはい、相手の油断を誘うってやつだろ。今更あたしらの前で演技しても無駄」

「わかりましたよ……やりますやりますやらせていただきます」


 俺、戦闘職じゃないんだけどな。どっちかっていうと研究職なのに。




 やっとこさ街道にたどり着き、女王陛下のご加護のもとに帰って来れた。


 二人のお陰で上空で見た街はアルトだとわかり、ウールートまで歩き続けるよりもアルトに戻った方が早いという結論に達し、街道を戻ることにした。


 と、その前に、腹ごしらえだ。日は随分傾いていて、戦闘時の興奮が覚めてくると急に空腹感が出てきた。


「とりあえず、食べられる動物はとってきました」


 腰につけた袋を開けると、中には緑のネズミが五匹。


「いつの間に」

「ショトじゃねぇか! でかした、ノト。これ尻尾をカリカリに揚げると酒のツマミに最高なんだよな」

「ここじゃ火であぶるくらいしかできませんよ」

「わぁってるって。肉も美味いの知ってっから」


 街道の脇に点在する休憩スペースまで歩き、手頃な岩の上でショトの頭を落として皮をはぎ、内蔵を取り出した。


「では、特審官どの、やっちゃってください」


 シャルムの詠唱に呼応して、岩の上に火柱が上がった。パチパチと油が弾ける音がして、いい匂いがただよい始める。


 たきぎも火種も要らないなんて、なんて便利なんだ。


 いい頃合いに焼けたショトを見て、俺は魔術の有用性を再認識したのである。





 アルトの方角へとてくてく歩き、途中で通りかかった馬車に乗せてもらって、夕方前にアルトに戻ってきた。

 協会で強盗について報告し、夕飯を食べて、昨夜と同じ宿を取った。


 ベッドに倒れこんで天井を見つめる。


 散々な目にあった。仕事は進まないし自分用の魔法陣は使いまくるし二人には色々とバレるし狙われるし。

 一体何なんだよあいつらは。


 目的や主犯を聞き出さなかったことを改めて悔やんだ。拷問でもしときゃよかった。


「ノト、今いいか?」


 ノックの音とともに、廊下からシャルムの声がした。


「はいっ、どうぞ」


 腹筋を使って起きあがり、入ってきたシャルムを迎える。


「リズは?」

湯浴ゆあみをしに行った。ノト、頼みがあるんだ」

「どうしたんです? そんな深刻な顔をして」

「僕に、魔法陣を描いてくれないか?」

「シャルムには魔術があるじゃないですか」


 シャルムは目を伏せた。


「それじゃあ、足りないんだ。リズをまもりきれない。魔術は時間がかかりすぎる。即時発動する術が欲しい」

「魔石を使えばいいのでは? シャルムなら、自分で封入することもできるでしょう?」

「魔石も使うことにする。今まで魔石は弱い者が使うと思っていた。家で、そう教えられてきた」


 魔術師の名門、ローイック家。魔力の多い血筋で、要職に就く者も多い。それなりのプライドがあるのだろう。


「リズはシャルムの護衛役なんですよね? リズの負担を減らしたいなら、自身を守る方法を考えた方がいいと思いますよ」

「違うんだ……」


 ギリッと歯を噛みしめる。


「リズが僕の護衛役なんじゃない。僕が、リズの護衛役なんだ」

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