第26話 人質

 シャルムが大掛かりな魔術を唱え始めた。

 俺とリズには一人ずつ、シャルムには三人が狙いを定めた。俺たちは互いの相手の攻撃を受け流し、シャルムに迫る男たちを阻止しようと動く。

 シャルムの術の発動にはまだ時間がかかる。間に、合わないっ!


 と思ったら、シャルムが詠唱を途中で強引に打ち切って、難易度を落とした術に無理やりつなげた。

 上手い。詠唱の意味を理解していないとできない芸当だ。


 五人に炎球が飛んでいく。四人はそれを剣で弾いたが、一人は障壁を生み出して防いだ。

 なるほどあいつは魔術師か。とっさの攻撃には素が出るもんだ。


 シャルムの相手に気を取られている隙に、先程あしらった相手が横から再び斬りかかってきた。剣をぶつけてそこを支点に体の向きを変え、腹に蹴りを入れる。よろめいた相手の腕に剣を振り下ろすが、服と皮膚を切っただけだった。


 以降も、シャルムに三人が相対しようとする動きが続いた。自然、俺とリズがシャルムを背にかばう形になる。


 魔術師は術の発動に時間がかかる。一方で、術次第では戦況を支配できる。だから魔術師をまず狙うのはセオリーだ。ましてやシャルムは銀髪なのだから放っておくはずはない。

 しかしそれにしては執拗に過ぎるというか、柔軟性に欠けるというか……。


 俺たちの後ろで、シャルムが次々に術を発動させていく。

 二人では全方位をカバーしきれない。その分シャルムが短い詠唱でしのぐことになり、なかなか大きな魔術が使えないでいた。


 誰かを護りなが戦うのは苦手だ。共闘するのも得意ではない。一対多が一番気楽で最も得意。ここしばらく一人で戦うことが多かったから、特にそう思う。

 大きく前に出たり下がったりすることができなくて、攻めきれない。自分に対する視線や攻撃には即座に反応できても、他人に対するものにはラグが生じる。そのわずかな差にイライラした。


 巻いた布で魔術師の口元が見えないのも厄介だった。前の発動から、次の術の発動タイミングを予測する。

 しかしそれは同じ魔術師であるシャルムの方が上手く、俺がそろそろだなと思ったときにはシャルムが攻撃していた。


「こういうのって、よくある、ものなんですかっ?」

「強盗か? なくはねぇなっ」


 でも、御者と乗客を装って馬車で襲い、わだちを偽装して森に誘い、動物をけしかけて、それが失敗すると直接襲う。

 ただの強盗にしては、用意周到で凝りすぎじゃないか?


 ふと、アルトの洞窟の魔法陣のことを思い出した。


 ――審査官を狙ったものなのかもしれない。


「っリズ!」

「しま……っ」


 シャルムの方に気を取られ、気付かなかった。

 俺たちが誘導されていたことに。

 そして、リズの足元に魔法陣があったことに。


 リズが地面から発した光に包まれた。


「くっ」


 眩しさに目がくらんだ。それは敵側も同じらしく、一瞬攻撃が止んだ。


 すぐに光はなくなり、視界は戻った。残像で目がちかちかする。

 その中に、後ろ手に腕をひねられ、首元にナイフを突きつけられているリズがいた。悔しさに顔が歪んでいる。


「貴様らぁっ! リズを放せ!」


 シャルムが詠唱をやめて怒りの形相で叫んだ。

 男たちは剣を俺たちに突きつけたままだ。


「両手を上げろ。妙な真似をしたらこいつを殺す。シャルム・ローイック、用があるのはお前だ。杖を置いてこっちへ来い」


 ナイフを持った男が口を開いた。


「リズの安全の保障は?」

「用があるのはお前だけだ。お前が大人しく捕まるなら危害は加えない。女王陛下に誓う」

「女王陛下にだと? どの口でそれを言う」


 鼻で笑うような言葉を吐きながらも、シャルムは言われたとおりに杖を手放し、一歩前へ出た。


「駄目だ! シャル、来るな!」

「僕がリズを見捨てることはあり得ない。それはリズもわかっているだろう?」

「……それでも、駄目だっ!」

「いいから早く来い」


 ぷつっとリズの首にナイフの切っ先が刺さり、血の玉ができた。

 シャルムがさらに一歩出た。


「あのー。一つ質問してもいいですか?」

「なんだ、お前」

「どうしてシャルムなんです?」

「魔法陣が描ける優秀な魔術師だからだ」


 !?


 俺たち三人が三人とも息を飲んだ。


 シャルムが魔法陣師だと勘違いしているのか。そりゃ「優秀な魔術師」が俺だと思う訳がないよな。


「そうですか。それだけ聞ければ十分です」

「違っ! 魔法陣を描くのは――」


 リズの言葉が終わらないうちに、俺は右のかかとを踏み鳴らした。


 瞬間、俺を中心にして、ぶわりと魔法陣が広がった。


 紫色の光で表されたそれは、膝あたりの高さで水平に空中に浮かび、リズとシャルム、そして男たちをその中に含む。


「死んでください」

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