できそこない魔法陣師とドラゴン

藤浪保

第一部

プロローグ

第1話 騎士見習い試験

「さ、そこの水晶玉に手をかざして」


 目の前にある水晶玉は子どもの頭ほどの大きさで、中にモヤモヤとした煙のようなものがたゆたっていた。


 その向こうにいるのは、大きくうねった赤い髪を持つオバ……お姉さんだった。

 羽織るローブは馬鹿みたいに短くて、もはやケープと言っても差し支えないほどだ。その隙間からはこれまた馬鹿みたいにでかいおっぱいの殺人的な谷間がちらちらとのぞいていたけれど、俺の目は水晶玉に釘付けだった。


「早くしてくれないか。こっちも暇じゃないんだ」


 オバ……お姉さんが面倒くさそうに言う。

 その顔には心底面倒くさいという表情が浮かんでいて、眉間にはくっきりとシワが刻まれていたのだが、俺は気づかない。


 ごくり、とのどを鳴らして、恐る恐る水晶玉に手を差し伸べた。


 これさえ無事に終えれば騎士見習いになれる。


 剣術試験はクリアした。

 魔力試験は、試験と名前はついているものの、実質は魔力測定だ。試験自体は魔力があることを示せばいい。誰しも多少の魔力は持っているのだから、失敗しようがない。


 そうはわかっていても、緊張するものは緊張する。


 水晶玉に触れないくらいの位置に、手のひらをかざした。ふわっと水晶玉をなでるように手を左右に揺らす。


 それだけで、いいはずだった。


 だが、水晶玉は反応しない。


 ぐっと手に力をこめてみたが、やっぱり変化はない。


「あら。これはこれは」


 オバサ……お姉さんの片眉がぴくりと跳ね上がった。


「もしかしたらと思ったけれど、あんた、まさか、本当に?」


 体中に力を込める。

 右手のひらに力を集め、手のひらから放出するイメージを描く。


 しかしモヤモヤはやっぱりモヤモヤのままだった。

 ただ水晶玉の中を自由に漂っている。


 部屋に入ったときの説明では、魔力を検知すれば渦を巻くと言っていた。その速さや色で魔力量や性質がわかるのだと。


「魔石を使うときと同じだよ。いつもと同じようにやればいいんだ」


 いつも通りと言われても、俺は魔石を使ったことがない。村にはそんな高価な物はなかった。


 左手で右手首をつかんで力をこめるが、何の反応も示さない。


 しまいには、両手でがっしりと玉を抑え込むようにして渾身の力をこめていた。

 それでもモヤモヤに影響を与えることはできなかった。


 どうして反応しない?

 魔力は誰にでもあるものじゃなかったのか!?


 足ががくがくと震えていた。

 先ほどから嫌な汗が背中を流れ落ちている。


「こりゃ確定だ」


 パッと顔を上げると、オバサンは、ピシッと指をさして満面の笑みで言い放った。


「不合格!」

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