閑話 首座様の愉快な仲間たち6

6 妻 ブレシッド公妃兼、首席補佐官


 執務室の惨状を目にしたアリシアから表情が消えた。ただ呆れたのか、沸き起こる怒りを抑えているのか。だが、先程まで妻にデレていたミハイルが、その気配をいち早く感じとってその場から逃げ出そうとしている所から見ると、どうやら後者が正しいようだ。

「ミハイル、何処へ行くのかしら?」

 ギクリとして恐る恐る振りかえる。夫を見上げるアリシアは口元に笑みを浮かべているが、目は全く笑っていなかった。

「し、仕事をしてこようかと……」

「執務室はここですわ」

「そうだ、留守中の報告を聞くんだった」

「ミハイル」

 この場を逃れる名案を浮かんだとばかりにミハイルはその場を後にしようとする。だが、地を這うような声で呼び止められ、当のミハイルだけでなく側に控えていた文官や護衛の武官までもが凍りついた。

「報告は後ほど聞きましょう。それよりもまずは、私が留守中の事をあなたから伺いたいわ」

 夫を見上げるアリシアは笑みを浮かべているが、やはり目は笑っていない。良くできた家臣達は、これから起こる事を予測して潮が引くようにその場を去っていく。

「じっくりと聞かせていただきましょうか」

 その恐ろしさに硬直したミハイルは、ただ頷くしかできなかった。

 大陸で最も有名な首座様が愛してやまない女性は、この世で最も怒らせてはいけない女性だった。

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