閑話 ジーンとリーガス愛の劇場8

第8話 嫉妬



 奥方様と姫様がお戻りになられた。ラグラスは捕え、懸念されていた審理も回避される事となった。この朗報を一刻も早く妻に知らせたくて、ジーンクレイを急かしてロベリアに戻った。

「ジーン、朗報だ」

「どうしたの?」

 妻は豊満な胸をはだけて授乳の真最中だった。

「奥方様と姫様がお戻りになられた」

「本当?」

 妻は驚いて私を見上げる。だが、体が動いたために息子の口から乳が離れ、ぐずりだす。

「ああ、ごめんね」

 彼女は慌ててもう一度乳を含ませると、息子はまた一心不乱に吸い始める。何だかうらやましい……。

「しかもだ、御嫡子様を伴ってのお帰りだ」

 気を取り直して続けると、彼女は驚いた様子で動きが固まる。

「……奇跡だわ」

「ジーン?」

 ポツリと漏らした妻に問いかけると、彼女は表情を曇らせて私を見上げる。

「お子様を宿したまま追手を逃れられたのは奇跡だわ。きっと、大変だったはずよ」

 彼女自身は悪阻つわりなどの妊娠に伴う体調の変化は比較的軽く済んだ。それでもたまに辛くて寝込む事もあったと聞く。その困難さを思うと、確かにこうして無事にご帰還されたのは奇跡とも思える。

「そうだな……」

 こうして会話を交わしながらも、ジーンは母親らしく息子を気遣いながら乳を与える。それにしても羨ましい……。

「すぐにお会いしたいわ……」

「行くなら坊主も連れて行こう。若様と同い年だし、遊び相手にちょうどいいとヒース卿とも話したんだ」

 満足したのか息子はゲップをすると妻の腕の中で眠り始めた。彼女は器用に息子を膝に乗せたまま肌蹴た衣服を元に戻してしまった。ああ……残念。

「一緒に遊んで、勉強して……素敵だわ」

「だろう?」

 そう遠くない未来にそんな光景が見られるかもしれない。

「いっぱいおっぱいを飲んで、早く大きくなって、パパみたいに立派な筋肉付けて、若様をお守り出来る様になるのよ~」

 妻が眠っている息子に言い聞かせているのを聞いていると、先ほどの授乳の光景を思い出す。

 ああ……早く乳離れしてくれないかな……。何だか無性に息子が羨ましくなってきた。俺も……触りたい。

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