97 砂上の楼閣3
着場上層へ真っ先に突入したのはルークだった。エアリアルから飛び降りると、グスタフの私兵らしい男達がわらわらと現れる。
「私が本宮へ帰るのに
出立前にエドワルドからそう命じられていたので、
「な、何をしている、早く捕えろ」
グスタフによって第1騎士団に転属になったらしい数人の竜騎士が現れて兵士に命じるが、アスターとヒースが一睨みするだけで尻込みする。格の違いは明らかだった。
やがて竜騎士団の本隊が到着する。上下両方の着場に飛竜達は整然と降り立ち、正装した竜騎士達は予め打ち合わせたとおり、上層の着場に整列してエドワルドを乗せたグランシアード、ユリウスとアルメリアを乗せたフレイムロード、マリーリアのカーマインを迎える。
「エドワルド殿下、及びアルメリア姫に敬礼!」
アスターの掛け声と供に、竜騎士全員が剣を掲げる。一糸乱れぬ動きに合わせ、剣が陽の光を反射する。そしてその光を受けて一層眩くプラチナブロンドを棚引かせながら竜騎士正装を
2人が一番端に立っているアスターの元まで来ると、竜騎士達は二手に分かれた。上級の竜騎士達はエドワルドやアルメリアの護衛として付き従い、残った竜騎士達は彼等を見送ると皇都と本宮の各門へと散った。
既に彼等への恭順を示した各貴族も手勢を連れて皇都を目指しており、もうじき到着する予定だった。中には捕えたゲオルグを護送する一隊もある。この後、彼等を交えてグスタフの糾弾と今後についての会議が行われる予定だった。
エドワルドは何事も無いように竜騎士達を引き連れ、西棟から南棟に出ると、真っ直ぐ父親の部屋に向かう。そんな一行をその場に居合わせた人々は驚いた様に道を譲って見送る。ある者は本当に当人なのか訝しみ、ある者は期待に満ちた眼差しで見送る。だが、その場に満ちた張りつめた空気に誰一人として声を出す者はいなかった。
「何をしておる。殿下を騙る曲者を早く捕えよ」
南棟から北棟に向かう通路で私兵を連れたグスタフとかち合う。彼は残るプライドをかき集め、遠巻きにしていた兵士に命じる。だが、彼等は顔を見合わせ、一向に動こうとはしない。
「姫を
再度の命令にようやく引き連れていた私兵達が動こうとするが、エドワルドは軽く一瞥する。ただ、それだけで私兵達は足が動かなくなる。言葉では表せないプレッシャーを浴び、腰に
エドワルドは悠々と彼等の横を通り過ぎ、グスタフの目の前に立つ。
「ワールウェイド公グスタフ、御前会議を行う。貴公の主張はその場で伺おう」
エドワルドはそれだけ言い残すと、アルメリアとアスター、ヒース、ルーク、ユリウスを引き連れて北棟に向かう。だが、供に行く手はずのマリーリアはグスタフの前で立ち止まる。
「お前は……何故ここにいる?」
「……私は、私の意思で殿下に従っています。もう、お止め下さい。殿下は全てをご存知です」
震える声でそれだけ言い残すと、マリーリアは早足でエドワルドの後を追う。アスターが足を止めて彼女を迎え、そっと肩を抱く。
「ごめんなさい、どうしても……」
「分かっている」
本宮へ出立前にアスターとマリーリアはエドワルドに呼ばれた。日記と手記に全てに目を通した彼は、状況が落ち着いてからになるが、竜騎士クリストフの件と共に調査をすると明言した。但し、随分と時間が経っているので全てを明るみにする事は難しく、思うような結果が出るとは限らないと釘は刺し、そしてこの日記の内容の裏付けが取れたとしても、このままを公表できないと難しい表情で言われた。だが、最後に表情を緩めると、マリーリアの待遇はどうにかすると返答したのだ。
マリーリアにとってグスタフは血の繋がりは無いと分かってはいても、子供の頃からどうにか認めてもらおうと努力してきた相手である。最後まで無駄に足掻かず、潔くその身を引いて欲しかった。この国と彼自身の為にも……。
「行こう」
「……はい」
マリーリアの複雑な心境を分かってはいるが、今はやるべき事がある。アスターは彼女を促すと、先に行く一行に合流した。
マリーリアと死んだと伝えられていたアスターが親密そうにしている光景を目の当たりにしたグスタフは、怒りで我を忘れてその後を追おうとする。だが、その行く手を巨大な影が
「おのれ……」
「じきにゲオルグ殿下もいらっしゃいます。どうぞこちらへ」
巨漢のリーガスがその行く手を遮り、更には元々第1騎士団に所属していた数人の竜騎士に囲まれる。文官のグスタフよりもはるかに体格のいい彼等に囲まれ、さすがの彼も一瞬たじろぐ。だが、そのプライドはそうやすやすとは崩れるものでは無かった。
「竜騎士ごときが宰相のわしを阻むとは無礼であろう。そこを通せ!」
「生憎と、既にゲオルグ殿下は国主代行の任を解かれ、新たにエドワルド殿下がその地位についておられます。それに伴い、貴公の宰相の任は白紙撤回されておられます」
勤めて事務的に答えたのはエルフレートだった。こちらにも死んだと伝えられていた人物がいてグスタフはギョッとする。だが、問題はそこではない。いつの間にか己が地位を失っていた事を宣言され、彼等を遠巻きにしていた兵士や文官、果ては私兵までもザワリとどよめく。
「あの者は偽物だ、嘘を申すな!」
新たに任命するには国主のサイン入りの正式な書類が必要である。そんなものを持ち出させる隙を与えていなかった筈だが、遅ればせながら一行の中にアルメリアがいた事に気付く。
「あの小娘……」
やり場のない怒りに強く握った拳が震える。だが、リーガスとエルフレートは断固とした態度を崩さない。
「貴公の主張は御前会議でお聞きすることになっております」
「速やかに移動してください」
リーガスもエルフレートも内心の怒りを抑え、あくまで事務的にそう言うと、仲間の竜騎士達と共にグスタフを合議の間へ連れて行く。そんな彼等を見送った兵士や文官達は、その場で起きた事がまだ信じられずにしばらくその場に立ち尽くしていた。
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