ミッション22—2 プレイヤー vs NPC
大型トレーラーに群がるNPCたちを、100人ほどのプレイヤー(ヨツバとヒヨコのファン)たちが攻撃する。
愛するアイドル2人への暴力に怒るプレイヤーたちの攻撃は、容赦がなかった。
まさしく銃の乱射。
見境なくNPCを撃ち殺していくプレイヤーたち。
明るい曲に飾られながら、渋丘のスクランブル交差点は血みどろだ。
「はじまったんだぞ! これがクエストなのかだぞ。見てて飽きないんだぞ!」
「ヨツバさんたちの歌も聴けるからね。普段のクエストよりも賑やかだよ」
「にしても、ヨッツーとヒヨコの2人、よく目の前で死屍累々な光景が広がってるのに、明るい表情で歌えるな……」
「きっとあれだよ。プロ根性、じゃないかな?」
「随分と図太いプロ根性だこと。ま、クエストを楽しんでくれてるみたいで何よりだが」
ヨツバとヒヨコはプレイヤーたちのため、歌い続けている。
プレイヤーたちはヨツバとヒヨコのため、戦い続けている。
クエストとしては最高の構図だ。
NPCたちを攻撃するプレイヤーたちは、スクランブル交差点外からも現われ、予定の260人に膨れ上がる。
警官でも兵士でもないNPCたちは、武装したプレイヤーたちには無力。
プレイヤーたちの銃撃によってあらゆるNPCが倒れ、プレイヤーたちの経験値に姿を変えていった。
ゲリラライブがはじまってまだ数分。
クエストはあっという間に盛り上がっている。
「みんなの背後霊、楽しそう」
「うう……うう……! やっぱりわたしも参加したいです! 耐えられないです!」
「じー」
「……お前ら、どうしても我慢できないか?」
「うん」
「我慢できません! あんなに楽しそうなこと、見てるだけなんてできません!」
「はあ……こいつらを連れてくるべきじゃなかったか……」
ティニーとラムダがおとなしくしていられないのは予測できたことだ。
いや、予測していたことだ。
彼女たちのセリフも、ファルやヤサカからすれば想定内のセリフなのである。
どうしてティニーとラムダを連れてきたのか後悔するファル。
片やヤサカは、なんとかしてティニーとラムダを操作しようとしていた。
「2人がクエストに参加しちゃったら、私とファルくんの2人でサダイジンちゃんの護衛をしないといけないよ?」
「別に良いじゃないですか! 百発百中のヤーサと冷血漢ファルさんが合わされば、サダを守るのも簡単です!」
「おい、誰が冷血漢だって? というか、サダイジンの護衛丸投げか?」
「あるいは、サダイジンも一緒に参加する」
「ティニーさん! 良いことを言ったんだぞ!」
「それです! それなら、ヤーサとファルさんも2人きりになれますしね!」
「ファルくんと2人きりか……」
なにやら上の空になるヤサカ。
しかしすぐに彼女は頭を振り、ぴしゃりと言う。
「サダイジンちゃんをクエストには参加させられないよ」
「やっぱりダメなのだぞ?」
「ごめんね。でも、サダイジンちゃんはゲーム開発者さんだから、どうしても、まだログアウトさせるわけにはいかないんだよ」
「だぞ、お姉さんの言う通りだぞ」
サダイジンを味方につけたヤサカ。
とはいえ、これでティニーとラムダがおとなしくなるとは思えない。
だからこそヤサカは、先手を決めた。
「ティニー、ラム、クエストに参加してきて良いよ」
「お、おい、ヤサカ?」
「やった」
「さすがはヤーサです! では行ってきます!」
「あんまり暴れすぎないでね」
まるでお母さんのようなヤサカ。
ティニーは
「大丈夫なのか? あんな面倒事製造機を野に放って」
「我慢のしすぎで暴発されるよりは、大丈夫だと思うよ」
「あ、おっしゃる通り」
諦めの境地に達したファルとヤサカ。
2人は、クエストを目一杯楽しもうとするティニーとラムダの背中を、ただ眺めることしかできなかった。
さて、ジープ内に残されたファルとヤサカ、サダイジンの3人。
こちらはおとなしくすることができる3人だ。
3人はクエストの見学を続行する。
「お姉さん、お願いがあるんだぞ」
「どうしたの?」
「ここからだと、クエストがよく見えないんだぞ。もう少しクエストが見学しやすい場所に移動したいんだぞ」
「そっか……うん、分かったよ。ファルくん、少し移動しよう」
「はいはい」
サダイジンのわがままに付き合い、ジープを降りた3人。
街中を盛り上げるヨツバとヒヨコの歌声、そして壮絶な銃声を聞きながら、3人は近くのビルへと移動を開始した。
こちらがプレイヤーである、と気づかれなければ、NPCに殺されることはない。
プレイヤーとNPCの全面対決の中をかき分け進むファルたち。
ファルたちはスクランブル交差点に面するガラス張りのビルに入っていった。
ビル内部では、ところどころで銃痕が目に入る。
それでも階段を上がると、NPCは皆ビルから逃げたようで、プレイヤーの姿もない。
クエストを見学するには悪くない場所だ。
「すごいんだぞ! クエスト会場がよく見えるんだぞ!」
「見た感じ、プレイヤーの方が優勢みたいだ」
「まだ警察と軍隊が到着してないからね。でも、プレイヤーのみんなのゲーム愛には、NPCじゃ勝てないよ」
「あとアイドル愛もな」
ビルから見えるスクランブル交差点での戦い。
その中で一際目立っているのが、機関銃を撃ちまくる秋川だ。
「許さんぞぉ!! ヨッツーを傷つけることは、この私が絶対に許さんぞぉ!!」
選挙演説の時よりも大声を出し、国会答弁の時よりも真剣な様子の秋川。
ヨツバのためならばなんでもする、と言わんばかりに鬼気迫った表情。
彼のその愛は、明らかにゲームではなくヨツバに注がれている。
NPCにとってプレイヤーが絶対悪と化したように、秋川にとってのNPCは絶対悪。
だからこそ秋川の持つ銃は、銃弾を放ち続けた。
そんな秋川の背後に、NPCの集団が迫っている。
バットを手にしたNPCたちは、秋川を袋叩きにしようと鼻息を荒くしていた。
ところがだ。
「悪霊、退散」
ティニーによるSMARLでの攻撃が、NPCの集団を吹き飛ばす。
続いてラムダの乗る自走対空砲がNPCを粉々に砕いていく。
28人のNPCが、合計獲得経験値280になったのだ。
「おいおい、あいつら秋川さんを救ってどうするんだ? 救出作戦なんだから、秋川さんには死んでもらわないといけないのに」
「冷静に聞くと、お兄さんが何を言ってるのか分からないんだぞ」
「一応はクエストだから、プレイヤー同士の協力も悪くないと思うよ」
「そりゃそうだが、このままプレイヤー優勢も困りもんだ」
ティニーとラムダの参戦で、プレイヤー優位は絶対的なものとなった。
大型トレーラーのステージ上で歌うヨツバとヒヨコも、すでに6曲目に突入している。
ゲリラライブでは10曲を歌う予定だが、この勢いだと20曲は歌えそうだ。
プレイヤー解放という観点でみれば、プレイヤー優位は歓迎できない。
反面、クエストという観点でみれば、プレイヤー優位はクエスト達成を引き寄せる。
ゲーム感覚的にはクエスト達成を優先すべきか、とファルはヤサカの言葉を聞いて思いはじめた。
《ファル、聞こえてるか?》
突如、腰にぶら下げた無線機から聞こえてくるレイヴンの声。
「聞こえてます。どうかしましたか?」
《悪くて良いニュースがある。実はそっちに――》
レイヴンが何かを言おうとしたその時であった。
ファルたちがいる対面のビルに爆弾が直撃、大爆発が起きたのだ。
衝撃でファルたちがいるビルのガラスも粉砕される。
爆音とともに、大空から轟くジェット音。
それは爆弾を落とした犯人――八洲空軍の攻撃機が上空にいる証である。
加えて、渋丘のビル街上空を縫うように、数機の攻撃ヘリが近づいてきていた。
《俺の言いたいこと、もう分かったろ》
「確かにこれは……悪いような良いような……」
八洲軍の到着だ。
プレイヤー優勢は、一瞬にして覆されたのである。
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