ミッション20—11 【バトル:ロスアン】結果報告

 大規模クエスト【バトル・ロスアン】によって、コンドル墜落に伴いロスアンは壊滅。

 コンドル墜落後、扶桑の総攻撃によってヴォルケは撤退した。

 メリア軍もロスアンを放棄する。


 八洲軍はロスアン跡地・・を占領、アメシア大陸上陸に成功した。

 これは、戦争のさらなる激化を呼び込むものである。


 さて、クエスト参加者のプレイヤーたちには、参加報酬と追加報酬が配られた。

 最終的な参加者の人数は4844人。

 大変な量の報酬になったかというと、そうでもない。


《『サルベーションに参加している皆様と、IFR内でプレイヤー救出作戦に協力してくださっているプレイヤーの皆様に、政府として感謝の言葉を贈ります。この度は、ありがとうございました』。これは峰官房長官からのお言葉です》


 護衛艦『あかぎ』の食堂で、ミードンが作り出す映像に浮かんだ田口の言葉。

 現実の官房長官からお褒めの言葉をいただいたファルやヤサカ、ティニー、ラムダたちは、笑顔を隠せないでいた。

 ただ、ファルは一応、謙虚な言葉を返しておく。


「田口さんたちが協力してくれたからこそ、ですよ。それに、まだプレイヤー全員を解放したわけではないですし」


《いえいえ、大変な成果です。先の作戦で4598名が、ゲーム世界から解放されたんです。これで、合計5817名のプレイヤーが解放されました。この調子ならば、全員解放もそう遠くはありません》


「そう……ですかね?」


《たった1日で4598名の救出、こちらでもかなり話題になっています。救出作戦にあれだけ否定的だったマスメディア等も、今では手のひら返しですよ》


「ほうほう……」


 ニヤニヤが止まらぬファル。

 ただの引きこもり――インドアな自分が、現実世界で讃えられているのだ。

 こんなに嬉しいことはないであろう。


《私も、皆さんには感謝の気持ちでいっぱいだ》


 田口の側に現れそう言った、初老の紳士。

 パナベル社代表取締役の有馬だ。

 彼は続けて、ラムダに話しかける。


《よくやったぞ、澪》


「当たり前ですよ! パパ!」


 うん? 今、ラムダが変なことを言わなかったか?

 その思いは、この場にいる誰もが抱いたこと。


「……どういうことだ? なんでラムダ、有馬さんのことをパパって呼んだ?」


「他になんて呼べば良いんですか!?」


「……え?」


 混乱するファルたち。

 ヤサカやホーネット、レイヴンですら、目が点になっている。


《おや? 伝えられていなかったか? 私は鈴鹿有馬、澪の――ラムダの父だ》


「「「「……ええええ!!!」」」」


「ラムダ! お前……パナベル社のご令嬢だったのかよ!」


「そ、そうだったんだ……驚いたよ……」


「ヘッヘ、シャムと違って、こっちはモノホンのお嬢さんだったてか」


 父親の前では言えぬが、ラムダがお嬢様だったなど、とてもじゃないが信じられぬことである。

 頭のおかしいスピード狂が、日本を代表する大企業の取締役のお嬢様。

 パナベル社の将来が不安だ。


 コトミは、有馬に対し頭を下げている。

 どうやらコトミは、ラムダが有馬の娘であることを知っていたようである。


「申し訳ありません。お嬢様の友好関係を考え、有馬さんがラムダさんのお嬢様であること、伝えていませんでした」


《いや、謝る必要はない。大企業の令嬢ということで、澪にはなかなか友達ができなかったのだ。そんな澪が友達に囲まれているのだから、私はそれで満足している》


「パパ! 友達が少ないとか言わないでください!」


《おっと、悪い悪い》


 珍しく照れたような表情をして、父親に抗議するラムダ。

 コトミはラムダに友達ができるよう、気を遣ってくれていたのだろう。

 その辺りはラムダも気づいているのか、小さな声――ラムダが小さな声を出せることに驚きだ――でコトミに感謝の言葉を述べていた。


 まさかのラムダの親子関係に開いた口がふさがらないファルたち。

 その一方で、髪を結んだ少女が田口と有馬を押しのけ、映像を占拠する。


《お兄! 素晴らしいではないか! 我らが両親も、雑誌やテレビの取材で大忙し、大喜びであったぞ! この妹、誇らしい気持ちでいっぱいだ!》


 高い声ながら、圧の強い言葉がファルたちを押しつぶす。

 どうして沙織は、こうも堂々としていられるのか。

 妹の凄まじい図太さに、ファルはため息をつく――のではなくニンマリとしていた。


「両親が、大喜び? 沙織、嘘じゃないな?」


《この妹が、お兄にウソをつくわけがなかろう!》


「よし! お兄ちゃん、頑張るからな! 沙織、応援しててくれよ!」


《妹はいつでもお兄を応援している! お兄、精進せよ!》


 右手を掲げ大声で言い放つ沙織。

 ニンマリ顔のファルは、キメ顔で親指を立てている。


 そんな2人を見て、ホーネットとクーノは苦笑いだ。


「変わった兄妹だねェ」


「変わってるっていうより、クレイジー……」


「うん。ずっと見ていられそうなぐらいに、ね」


 心の底から呆れるホーネットとは違い、ヤサカはファルと沙織を微笑みながら眺めていた。

 まるで、2人の家族関係に加わりたいかのように。


 ひるがえったマントが似合いそうな、ワッハッハと笑う沙織を押しのけ、映像は再び田口が占拠する。

 話題は、少し真面目な、そして希望のあるもの。


《ひとつ、お伝えしたいことがあります》


「なんですか?」


《先の作戦で、昏睡状態に陥っていたプレイヤーの1人が目を覚ましました》


 その言葉がファルの鼓膜を震わせた途端、ファルは聞き返す。


「レオパルトが目覚めたんですか!?」


《……いえ、目覚めたのは佐山レオパルトさんではありません》

 

「そ……そうですか……」


 早とちりしてしまったファル。

 落ち込む彼に、田口は言葉を続けた。


《目覚めたプレイヤーは、昏睡状態に陥っていた際の記憶がないそうです。ただ、目覚める直前、自分の上に巨大空中戦艦が落ちてくる光景を見たとか》


「だぞ。それは興味深い情報だぞ。昏睡状態の間も、プレイヤーはゲーム内にいたってことなんだぞ。」


 話を聞いていたサダイジンは、すぐさま考えを巡らす。

 情報量は少ないとはいえ、貴重な情報だ。

 これをもとに昏睡状態のプレイヤーを救い出す方法が見つかれば良いのだが。


「ねえファルくん、そんなに暗い顔しなくても大丈夫だよ。昏睡状態のプレイヤーが目覚めることが分かったんだよ? ということは、レオパルトくんも目覚めることができるってことなんだから」


「……ああ、そうだな。落ち込んでてもしょうがないよな。ありがとう、ヤサカ」


 ヤサカはいつだって、落ち込んだファルの心を明るくしてくれるのだ。

 彼女がいてくれたからこそ、ファルはここまで来られたのだ。


 レオパルトの救出に絶望する暗い表情ではなく、レオパルトを救出するという強い覚悟を決めた表情を浮かべたファル。

 そんな彼を見て、田口は口を開いた。


《ゲーム世界に残されたプレイヤーは約8000人。全員解放、どうかお願い致します》


「もちろんです」


 プレイヤー大量ログアウトの方法は確立したのだ。

 ヤサカやティニー、ラムダ、ホーネット、クーノ、レジスタンスのみんな、サルベーションのみんなもいる。

 必ず、プレイヤー全員解放は成し遂げられる。


 田口との通信が終わり、消える映像。

 ファルは振り返り、ヤサカたちに言った。


「レオパルトも含めて、プレイヤー全員を解放する。だから、最後の1人をゲームからログアウトさせるまで、協力してくれ」


 真面目なことを言うファルが珍しかったのだろう。

 ラムダたちは可笑しそうに笑って、いつも通りの調子で答えた。


「ファルさんよ、これからも一緒ですよ! まだまだゲームを楽しみましょう!」


「私も背後霊も、トウヤを手伝う」


「任せてェ。ヤサちゃんのためにもォ、ファルさんへの協力はァ、惜しまないよォ」


「プレイヤー解放のためだから。別にあんたに協力するわけじゃないから」


「私は、最初から最後まで東也ファル君たちを支えてあげるつもりよ」


「ファルお兄さん! わたくしはファルお兄さんを裏切ることはありませんわ!」


「未来の英雄ミードン、神様ファルのためならどこまでも! にゃ!」


「ヘッヘ、こりゃ俺もなんか言わなきゃいけねえな。ファル、俺はお前を信じるだけだ」


 みんな、それぞれに伝えたいことを口にした。

 そして最後にファルの言葉に答えたのは、ヤサカである。


「ファルくんは、プレイヤー全員を解放してくれるって、約束してくれたからね。約束を果たすまで……ううん、いつまでだって、私はファルくんと一緒にいるよ」


 ファルの手を取り、はっきりとそう言ったヤサカ。

 それに対し、ファルも強く手を握り返す。


「約束は必ず果たす」


 いよいよ、救出作戦も大詰めだ。


「ところでファルさんさァ」


「なんだクーノ?」


「今日のォ、ヤサちゃんのパンツの色はァ?」


「純白!」


「天使の色だねェ! クーノもォ、是非ともこの目で確認したかったよォ」


「ファル……くん……!」


 せっかくの団結の雰囲気も、台無しであった。

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