ミッション18—5 ライアン・マウンテン基地襲撃作戦 IV
扶桑とラムダたちにより、ライアン・マウンテン基地の防御システムは崩壊。
この機を逃さず、ティニーが用意した武器を持つ150人のプレイヤーたちが、扶桑から飛び降りた。
150の落下傘が、木の葉のごとくライアン・マウンテン基地へと落ちていく。
一方で、メリア空軍の戦闘機8機は、ライアン・マウンテン基地を守ろうとアフターバーナー全開だ。
彼らの相手をするのは、クーノである。
「クーノがァ、8機全部を撃墜するからァ、ラムさんたちは空爆を続けてねェ」
《分かりました! 楽しい空爆、続行です!》
「ちょっと待て。1機で8機を相手にするのか?」
「そうだよォ。ドッグファイトに持ち込めばァ、余裕だねェ」
「いくらなんでも無茶だろ!? まさか……8機の戦闘機相手に無双した方がゲームらしくて楽しい、的な感じか!?」
「さすがァ、ファルさんはよく分かってるゥ」
「
別にクーノを信用していないというわけではない。
ファルだって、クーノならば8機の敵戦闘機を1人で全滅させられると思っている。
問題は、そのクーノと一緒の戦闘機に乗っていることだ。
これから8機の戦闘機との戦いがはじまる。
朝食の
覚悟を決めた直後である。
コックピット内に警報音が鳴り響いた。
敵戦闘機がファルたちにレーダー照射を行っている証である。
警報音はすぐに、ミサイルの接近を伝えるものに変化した。
クーノは操縦桿を傾け、機体を扶桑に寄せる。
「代表ゥ、防御壁を展開して欲しいなァ」
《言われなくても分かってるぜ》
レイヴンは間髪入れずに、扶桑の操縦者たちに指示を出した。
《防御壁展開!》
短い指令にヤサカたち操縦者たちは応え、扶桑は攻撃を中断。
それから程なくして、青みがかった透明な光が、扶桑を包み込む形で出現する。
光の中には、扶桑のすぐ側を飛ぶクーノとファルの戦闘機もいた。
ミサイル接近の警報は、けたたましく騒いでいる。
辺りを見渡すと、青い光の壁の向こう側に、こちらへ近づくミサイルの姿が肉眼でも確認できた。
ファルたちを殺すためだけに飛ぶミサイル。
数秒後、そんなミサイルたちは青い光の壁に衝突し、任務を果たせず爆発四散した。
コックピットに響いていた警報も鳴りを潜める。
《全ミサイル、防御壁に衝突。防御壁の耐久値は2パーセント減。クーノ、ファルくん、そっちは無事?》
「大丈夫だよォ。ムフフゥ、ヤサちゃんがクーノのこと心配してくれてるゥ。優しいなァ、嬉しいなァ」
《無事そうで何よりだよ》
「無事なのか? クーノの頭は無事じゃなさそうだが?」
《いつも通りなんだから無事だよ》
「あ……そうだな……」
ヤサカの無意識毒舌。
反論の余地がないのがまた悲しい。
「にしても、ミサイル数発で耐久値2パーセント減か。巨大空中戦艦の防御壁って、えらく頑丈なんだな」
《うん、巨大空中戦艦同士の戦いを想定した機能だからね。だけど、防御壁展開中は攻撃ができないっていう欠点があるんだよ》
「え? じゃあ、どうやって巨大空中戦艦同士の戦いに決着をつけるんだ?」
《巨大空中戦艦は単独で戦わないんだよ。味方の戦闘機や地上部隊を引き連れて戦うのが基本だね。だから、味方にシールドを攻撃してもらったり――》
「敵の戦闘機や地上部隊の攻撃を恐れず、防御壁無しで巨大空中戦艦を攻撃したりする、ってことだな」
《その通りだよ》
「意外と駆け引きが必要なんだな」
公式チートである巨大空中戦艦も、万能ではないということだ。
この辺のバランス調整は、サダイジンが必死に考え出したものなのだろう。
ところで、ミサイルによる攻撃に失敗した敵戦闘機8機はどうしたのか。
ここはゲーム世界だ。
彼らはドッグファイトに持ち込もうと、ファルとクーノが乗る戦闘機――F150Eに近づいてきている。
「来たよォ。ファルさん、気絶しないでねェ」
そう言うと同時、クーノはスロットルを全開に。
さらに操縦桿を捻らせ、F150Eを旋回させた。
エンジン音が鼓膜を震わせ、振動が体に伝わり、強烈なGがファルを押し付ける。
毛細血管は破裂し、息をするのも一苦労。
ファルのHPはわずかに減っていた。
F150Eの機首は敵戦闘機にまっすぐと向けられている。
コックピットには再び、敵のレーダー照射とミサイルの接近を報せる警報が鳴り響いた。
「おい……避けないのか? おい!?」
「ギリギリまで避けないよォ」
「マジかよ……!」
思わず目を瞑るファル。
できれば警報が聞こえないよう、耳も塞ぎたいところだ。
音速を超えて対面するF150Eとミサイルは、あと5秒もせず衝突するだろう。
その瞬間、クーノはフレアをばら撒き、操縦桿を思いっきり引いた。
F150Eは空から紐で吊られるかのように上昇。
ミサイルはフレアを追って明後日の方向に去っていく。
機首を天に向けさせたまま、クーノはF150Eのスロットルを絞り減速させた。
F150Eは徐々にスピードを緩め、ついには重力に負け落下をはじめる。
落下をはじめたその瞬間、クーノは操縦桿を引き背面飛行を維持、さらにスロットルを開いた。
「おお……卵焼きが……喉まで……」
「吐いても良いけどォ、邪魔はしないでねェ」
「冷たいな……」
霞むファルの視線には、空と地上が逆転した光景が広がっている。
そして、ファルたちの乗るF150Eを追い抜いてしまった敵戦闘機8機の後部も。
クーノが操縦桿を再び捻らせたことで、F150Eもそれに応え180度ロール。
強烈な加速とともに、F150Eは水平飛行に戻り8機の敵戦闘機を追う。
少しして、コックピット内に甲高い音が鳴り響いた。
その無機質な音は、ミサイル接近を報せる警報ではない。
その冷たい音は、敵戦闘機4機を同時にロックオンしたことを報せる合図だ。
「アウル1、FOX3!」
口元を緩ませ敵戦闘機の姿をじっくりと眺めながら、そう叫んだクーノ。
そしてすぐにトリガーを引いた。
次の瞬間、4発の対空ミサイルは機体から外され、己の推進力で敵戦闘機へと食いつく。
敵戦闘機部隊は即座に散開。
ミサイルに追われる4機の戦闘機は、フレアやチャフをばら撒きながら回避行動をとった。
ところが、ここはゲーム世界である。
クーノは『ミサイル誘導強化』というスキルを持っているのだ。
つまり、クーノの放ったミサイルは、敵の妨害――フレアやチャフをほぼ無効化してしまうのだ。
無情にも、敵戦闘機のばら撒いたフレアやチャフは意味をなさない。
必死に回避行動をとる4機の戦闘機のうち、3機がミサイルによって爆炎に包まれ、鉄の残骸を地上に落としていった。
最初の攻撃だけで、クーノは3機の敵機を撃墜してしまったのである。
《僚機が墜とされたぞ!》
《動揺するな! 相手はたった1機だ!》
無線に入り込む敵戦闘機のパイロットNPCたちの言葉。
NPCたちの恐怖ステータスが上がったのか、その声はどこか震えていた。
今のパイロットNPCたちにとって、クーノは悪魔のような存在だろう。
実際、クーノは容赦がない。
彼女はスロットルを全開にしたまま、先ほどのミサイル攻撃を生き残った敵戦闘機1機のすぐ後ろに陣取っている。
敵戦闘機の尾翼がわずかに動いたのを、ファルは見逃してもクーノは見逃さない。
クーノはF150Eの機首を、敵戦闘機の右斜め上に向けた。
その機首の方向に、まるで吸い込まれるように敵戦闘機は針路を変える。
ここでクーノは、バルカン砲を発射した。
もはや敵戦闘機の未来は定まったのだ。
たった1秒の間に撃ち放たれた、100発以上の20ミリ弾。
敵戦闘機は弾丸によって機体をズタズタにされ、翼を折られ煙を吐きながら地上に落ちていく。
早くも4機に半減した敵戦闘機部隊。
敵パイロットNPCは恐怖ステータスが最大値に近いづいているのだろうが、ファルもクーノに恐怖心を抱いた。
クーノは頰を歪ませ、次の獲物は誰にしようかと、楽しげな視線で敵戦闘機を眺めているのだから。
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