第18章 これフライトシューティングゲームですし

ミッション18—1 ライアン・マウンテン基地襲撃作戦<ブリーフィング>

 護衛艦『あかぎ』の、明かりの落とされたブリーフィングルーム。

 壁に掲げられたモニターには、アメシア大陸東部ロック山脈に作られた『メリア軍ライアン・マウンテン基地』周辺の地図が映し出されていた。


 モニターを眺めるのは、ファルとヤサカ、ティニー、ラムダ、クーノ、サダイジンなど、いつものメンバーたち。

 ブリーフィングを進めるのはレイヴンである。


「戦争がはじまって1ヶ月半。早いもんだぜ。戦力で圧倒するメリアに対し、八洲は優れた防衛戦を展開、メリアに唯一勝る海軍力で、メリア軍の攻撃をなんとか凌いでやがる。ヤサカたちが戦争初期に2つの基地を叩いたのも、八洲優勢に貢献したみてえだな。今やプレイヤーの解放人数は1000人を突破した」


 ここまでは、レイヴンは笑顔を浮かべていた。

 だがこの先は、笑顔で語れるような状況ではない。


「とはいえ、相も変わらず戦力はメリア軍に軍配が上がる。このまま戦争を続ければ、互いの国が消耗し、NPCの間に厭戦気分が蔓延しかねない状況だ。そうなりゃプレイヤー救出作戦も滞る。そこで秋川さんは、メリア本土への上陸を計画しているらしい」


 上陸作戦、と聞いてファルたちは顔を見合わせる。


「メリア大陸での地上戦となれば、海上戦が中心だったこの1ヶ月半と比べて、より多くのプレイヤーを戦闘に参加させることができる。事の次第によっては、ベレルも戦争に巻き込ませることで、一気にプレイヤー全員をログアウトさせる算段だ」


 あまりに壮大な計画に、ファルたちは驚いた。

 同時に疑問も生まれた。

 この疑問に答えたのは、レイヴンである。


「そんな計画、うまくいくのかって? 普通じゃ無理だ。無謀な作戦以外の何物でもない。俺がまだ自衛官だったとして、政府からそんな計画を聞かされりゃ、政治家はバカしかいねえと呆れてるところだぜ」


 そう言った直後、レイヴンはファルたちの顔をじっと見る。


「だが、ここは現実じゃねえ。ゲーム世界だ。お前らはチート持ちだ。となれば、非現実的な作戦だって成功に導ける。そこで立案されたのが、今回の作戦というわけだな」


 レイヴンはモニターを指差し、ニタリと笑う。

 ここからがブリーフィングの本題だ。


「メリア西部のライアン・マウンテン基地は、山を丸々くり抜いて作られた要塞だ。ここは現在、メリア軍の司令部であり、補給基地の総本山。これを叩けば、上陸作戦への道が開ける」


 説明が進むと同時に、モニターに映し出された地図には、いくつかの駒のような表示が現れた。

 その駒を指差し、レイヴンは話を続ける。


「まずクーノ率いる1個戦闘攻撃機中隊が、基地のレーダー網を破壊する。レーダー網破壊後、続けて基地を攻撃。この際、俺たちが空中戦艦扶桑で超高速移動、地上に降ろした陸上部隊と一緒に基地を奇襲だ。補給は空中でティニーがやるから、残弾数は気にするな」


 ついに空中戦艦扶桑の出番。

 ほとんど宝の持ち腐れ状態であった扶桑も、いよいよ暴れまわる時がきたのである。


 それにしても、空中でティニーが補給、とはどういうことなのか。

 ファルは首をかしげるが、少なくともチート技を利用した作戦であるのは確かなようだ。


「サダイジンの情報によると、基地には決定的な弱点があるらしい。それは、ここに伸びる溝からつながる山中のトンネル、その奥にある基地の発電施設だ。これを破壊すれば、基地はしばらく機能停止状態に陥る」


 地図は立体化され、ライアン・マウンテン基地の詳細な情報が表示された。

 レイヴンの説明通り、基地から伸びた巨大な溝は山の中に続き、巨大なトンネルとなって発電施設まで続いている。

 トンネルの距離は、驚くべきことに数十キロはありそうだ。


 そんな奥地にある発電施設を、どのようにして破壊するのか。

 ファルは挙手して口を開いた。


「質問です。発電施設は陸上部隊が破壊するんですか?」


「いや、それじゃ時間がかかりすぎる。発電施設の破壊は、戦闘機でやってもらう」


「は?」


「ここはゲーム世界だぜ。トンネルで戦闘機飛ばすくらい、できるだろ。な、クーノ」


「フフフ、当然だよォ」


「マジか……」

 

 戦闘機でトンネルを飛び抜けるとは、確かにゲームっぽいシチュエーション。

 しかし、ゲーム世界にしてはリアルを追求したイミリアで、そんなことが果たして可能なのだろうか。

 

 少しだけ不安な気持ちを抱えたファルだが、レイヴンは気にしない。

 レイヴンはブリーフィングを進めた。


「基地破壊後は速やかに撤退。おそらく――いや確実にコンドルが増援にやってくるだろうから、早く逃げるに越したことはない。陸上部隊は置いていく」


「置いていく? 見殺しですか?」


「救出作戦も並行して実施する。陸上部隊はクエストで集めたプレイヤーを中心に編成させる予定だ。プレイヤーを置き去りにしたところで、あいつらは殺され、ログアウトされ、現実に戻るだけ。見殺しどころか救出してやるんだぜ」


「そういうことですか、なら仕方ないですね。どんどん置き去りにしましょう」


「ヘッヘッヘ、その調子だぜファル」


 イミリアから1人残らずプレイヤーを解放するには、プレイヤーが死ぬことに躊躇してはいけない。

 むしろ、積極的にプレイヤーを死に追い込まなければならない。

 これは救出作戦。仕方のないことだ。仕方のないことだ。


 さて、ブリーフィングも終盤。

 レイヴンは最後に、締めの言葉をファルたちに届けた。


「この作戦は、レジスタンスにとって2年半前の戦争以来の大規模な作戦になる。だが、何度も言う通りここはゲーム世界だ。この作戦も、ゲームのひとつのミッションにすぎねえ。お前ら、精一杯ゲームを楽しめよ。以上だ」


 これにてブリーフィングは終了。

 ブリーフィングルームの明かりは灯り、レジスタンスのメンバーたちはそれぞれ準備を開始する。

 

「おいファル、ちょっと来い」


 レイヴンに呼ばれ、彼の前に立つファル。

 

「なんでしょうか?」


「お前、ノースロス空軍基地でパイロットをコピーしたんだってな」


「はい」


「戦闘攻撃機1個中隊なんだが、機体はラムダに用意させる。で、お前にはパイロットを用意してほしい。機体は複座型8機だから、パイロットは12人必要だな」


「12人? 1機はクーノだとしても、15人では?」


「1機はラムダとティニーが乗る機体だ。クーノは1人で機体を操れる」


「そうですか……分かりました。じゃあ、パイロット12人、用意します」


「頼んだぜ」


 使い道が難しいファルのチート技も、最近では利用頻度が高くなってきた。

 戦争に必要なのは兵士の数だ。

 そう、ファルがコピー兵士NPCを大量増殖させることで、八洲の戦力不足を補う場面が増えてきたのである。


 数日前も、メリア軍の特殊部隊が八洲本土に潜入してきた際、ファルのチートが活躍した。

 約1000人のコピーNPC兵士を使って、メリア軍特殊部隊をあぶり出したのだ。

 

 しかし、ファルのチート技には2つの欠点がある。


 ひとつはコピーNPCがバグること。

 数日前のメリア軍特殊部隊狩りでも、コピー兵士NPC1000人が「冷房の温度下げてください」しか言わなくなるというバグが発生していた。

 

 そしてもうひとつの欠点が、少々難題なのだ。

 戦争というチームプレイが増えたことで浮かび上がってきた欠点。

 この欠点があるからこそ、ファルはレイヴンに問いかける。


「あの……コピーNPCは大まかな命令は聞いても、細かい命令は俺の命令じゃないと聞きませんよ? その辺は、どうするんです?」


 この欠点により、ファルは作戦司令室で無線を手にする時間が増えている。

 今回の作戦も、ファルは司令室から命令を下す役を与えられるのか。

 レイヴンの回答はあっさりしたものであった。


「お前が戦闘機の乗り込めば良いだろ」


 まさかの前線送り。

 なんと、ファルは人生ではじめて――ゲームだけど――戦闘機に乗ることになってしまったのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る